第95話 妹ドルぱらだいす! #2

 二日間に渡るSHINYのコンサートは大成功。

 それだけで終わるはずもなく、SHINYは今日もアイドル活動に励む。

「頑張ってね! みんな」

「うんっ! リオナに任せて、Pクン」

「今夜もご褒美、期待してるわよ? うふふっ」

「んもう、菜々留ったら……それじゃ、いってきます」

 アイドルたちは当然のこと、プロデューサーの『僕』もやるべきことは多かった。

 スケジュールの調整、企画の売り込み、打ち合わせ――などなど。そんな『僕』のサポートがあってこそ、里緒奈たちは全力でアイドル活動を楽しめる。

 その甲斐あって、世間でもSHINYは『ますます可愛くなった』『応援したい』と好評を博していた。

 SPIRALとの共演も決まり、名実ともにトップアイドルの仲間入り。

 ある情報誌ではこんなインタビューが掲載された。

『元気いっぱいのSHINYですが、エネルギーの源は何ですか?』

『内緒でぇーす! ごめんね』

 本当のことを言えるはずがない。

 その夜も『僕』たちはS女のプールで集合した。里緒奈たちは先日の世界制服で手に入れた、ケイウォルス学園の――純白のスクール水着を着て、恥ずかしそうに微笑む。

「今夜はナナルからよ? Pくん。ナナルのこと、いっぱい抱き締めて?」

「う、うん……ほんとにすごい恰好だね、それ」

「ぴ、P君が着せたんじゃないですか! ばか……」

 まだ躊躇っている菜々留や恋姫を差し置き、里緒奈が飛び込んできた。

「明日はお休みだもん。みんなで一緒に夜更かし……しよ?」

「順番は守るんだぞ?」

 プールサイドにはお風呂セットに、ソープマットも。

 SHINYの熱い夜は終わらない。


「――ハッ?」

 終わらないと思いきや、夢だった。

 スズメの鳴き声を環境音に、『僕』はいつものベッドで目覚める。もちろん今朝もぬいぐるみの姿で。

「んなわけないか……ハア。ケイウォルスにもまだ行ってないし……」

 心地よい夢が途切れてしまった無念さと、里緒奈たちを淫夢に登場させてしまった後ろめたさが、朝一から『僕』の気分を沈み込ませた。

 記憶も昨夜あたりからボンヤリとしている。

 確かライブのあと、里緒奈たちに騙され、ステージに立ち……カメラの前で恥ずかしい恰好をさせられた挙句、ダブルピースまで決めてしまったような。

 お仕置きだった。

 『僕』はマーベラスプロに所属する敏腕プロデューサー(自称ではない)で、SHINYというアイドルユニットを任されている。

 魔法使いの『僕』はアイドルのプロデュースを通じて、修行中だったりもする。

 ところが先月、メンバーの女の子たちに『僕』の、本来の姿を知られてしまった。ぬいぐるみは世を忍ぶ仮の姿、本当は妹の美玖と同じ人間なわけで。

 まずは里緒奈にばれ、秘密を共有した。

 次に菜々留にばれ、秘密を共有した。

 それから恋姫にもばれ、やはり秘密を共有した。

 そしてお風呂デート(スクール水着でちょっぴり過激なソーププレイ)を繰り返していたところ、三股交際のような関係が発覚。そこから先のことは怖くて思い出せない。

「まあ僕が悪いんだけどさ……」

 それはそれとして、プロデューサーの『僕』は気持ちを切り替えた。

 宙を飛びながらカーテンを開け、五月の朝日を迎え入れる。時刻は6時前、今日も綺麗に晴れそうな青空が清々しい。

「よぉーし!」

 昨日に続き、本日もSHINYのコンサート。最高のライブにするためにも、プロデューサーの『僕』が一番に気を引き締めなくてはならない。

 S女子高等学校の隣にあるSHINYの寮にて、慌ただしい朝が始まった。

 洗面所ではメンバーのひとり、菜々留(ななる)が顔を洗っている。

「おはよう、菜々留ちゃん」

「あら、Pくん? だめよぉ、レディーの朝の支度を覗いたりしちゃ……」

 『レディー』という言葉に説得力があるのも、彼女だからこそ。ちょっとしたお嬢様だけあって、言動も物腰も奥ゆかしかった。パジャマであっても折り目正しく着て、気取るわけでもない自然な気品を醸し出す。

「タオル、タオル……」

「ちょ、菜々留ちゃん? 僕はタオルじゃ」

 ただし少し天然のきらいがあった。水滴を入れまいと目を瞑っているせいで、タオルと『僕』を取り間違え、ぬいぐるみのお腹で顔をごしごし。

「#$%&~!」

「ふう……あら? Pくん?」

 まだ寝惚けているのかもしれない。

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