第82話

「本当にいいんですか? 今日はあれもこれも奢ってもらって……」

「恋姫ちゃんは気にしないで。もとはといえば、無断で世界制服の企画を進めてた、僕が悪いんだからさ」

 『僕』がチョコパフェを注文すると、恋姫が噴きそうになった。

「ち、ちょっと……P君? その格好でパフェですか?」

「恋姫ちゃんもパフェにしなよ。食べたいでしょ」

「じゃあ、お言葉に甘えて……レンキはイチゴパフェをひとつ、お願いします」

 ウェイトレスは笑みを堪えつつ、『お待ちください』と下がっていく。

 しばらくして、ふたつのパフェが運ばれてきた。恋姫に代わって『僕』がパフェの写真を撮ると、また恋姫が愉快そうに微笑む。

「やってることが女子高生みたいですよ? P君。うふふっ」

「な、なんとなくだよ。そっちのも美味しそうだね」

「そんなに言うなら一口、交換しませんか?」

「そっちこそ女子高生そのものじゃないか。もちろん、いただくけど」

 自分の分を食べる前に、『僕』たちは相手のパフェをスプーンで少し掠め取った。

「もぐもぐ……うーん、僕もイチゴにすればよかったかな」

「レンキがチョコパフェでも、同じこと言ってますよ」

「かもね。ありがと」

 そして自分のパフェも味わいながら、アイドル活動の話題で盛りあがる。

「コンサートの衣装? 心配しないで、ちゃんと調整してもらってるよ」

「スカートを追加してくださいっていうお話です」

 恋姫は手を休めると、まじまじと『僕』を見詰めた。

「あの……レンキたち、前にも会ったことありましたよね? 美玖の家で……」

「どうかなあ……」

 『僕』のほうもスプーンを置き、腕組みのポーズで考え込む。

 SHINYの結成以前、こちらの世界の実家では人間の姿でいるほうが多かった。遊びに来た恋姫が、その『僕』を見掛けた可能性はなくもない。

「あれが美玖のお兄さんなんだって思ってたら、美玖にぬいぐるみを紹介されて……誰だったんだろうって、気になってたんです」

「それ、僕だよ。廊下で挨拶くらいはしたかも」

 恋姫は頬を染め、もじもじと指を編んだ。

「あの時のお兄さんがP君で、今はこうして一緒にいるのが……なんだか不思議で。P君はそんなふうに思いませんか? その……今朝の映画みたいな、こと……」

 映画のラブシーン以外を思い出し、『僕』も顔を赤くする。

「運命……とか?」

「は、はい」

 まるで恋人同士のような会話に胸が熱くなってきた。

 恋姫が前のめりになって『僕』に念を押す。

「あのっ、P君! れ、レンキ、美玖とは仲良しですから!」

「し、知ってるよ? それがどうかした?」

「大事なことなんですっ! その、将来のために……ごにょごにょ」

 何を言われているのか、わからなかった。それでも『僕』は恋姫の、今日はやけに赤くなったり慌てたりする有様に、こそばゆいものを感じる。

(恋姫ちゃんでもこんなカオするんだなあ……)

 そのせいで警戒を忘れていた。

「あ、あの……P君? えぇと、今夜……なんですけど」

「うん?」

「デートの続き……プ、プールで待っててくれませんか? 昨日と同じように」

「あー、う……んんっ?」

 数秒遅れでその意味するところを悟り、『僕』は愕然とした。この誘いに応じてはいけないと、生存本能が直感する。

「ちょっと待って? それはまずいっていうか……し、仕事が……」

 仕事を理由に断るほかなかった。

 すると、恋姫は心細そうに両手を胸元に寄せながら、つぶらな瞳を潤ませる。

「だめ……ですか?」

(~~~ッ!)

 健気なまなざしに涙まで混じっては、もはや抵抗は不可能だった。仮にここで拒絶しようものなら、『僕』は女の子の気持ちをないがしろにする、最低のクズとなる。

「わ……わかったよ。会うだけなら」

「はい! 見つからないように来てくださいね、P君」

 とはいえ、まさか恋姫までソーププレイとは言い出さないだろう。昨日のように背中を流してもらえば、十分ほどで済むはず。


                   ☆


 その夜、約束通り『僕』は夜中のプールで彼女を待った。

 清掃なら昨日もしたため、今日はいらない。ただし今夜は宿直がいるため、プールの照明は全開にせず、シャワーのコーナーだけこぢんまりと明るくする。

 やがて恋姫がスクール水着にパーカーを被せた恰好で、プールサイドへやってきた。

「お、お待たせしました……P君」

 緊張のせいか、視線を泳がせながら、お腹の位置で指を捏ね繰りまわす。

「今夜もその……背中を流してくれるんだよね? 恋姫ちゃん」

「は、はい。ですけど今夜は……お昼のデートの続き、ですから……」

 『僕』の胸も早鐘のように鳴っていた。抱き締められるものなら、すぐにでも抱き締めたい――そんな衝動に駆られる。

(や、やばいぞ? 今夜の恋姫ちゃん、すごく可愛いし……)

 頭にも熱がまわってきた。

 そんな『僕』の前で恋姫はパーカーを脱ぎ、スクール水着の身体つきを見せびらかす。過ぎるも欠くもないプロポーションは、確実に『僕』の目を血走らせた。

 豊満な胸の膨らみと、曲線のついたお尻のせいで、生唾が溜まる。

「んもう……ジロジロ見ないでください? P君」

「え? あ……ごめん」

 わざとらしく互いに顔を背けるも、気まずくはならなかった。

 横目がちに視線を合流させ、無言の頷きを同意とする。

「じゃあ、そろそろこっちで……いいかな?」

「……はい」

 『僕』は水泳パンツの手前を隠しつつ、ぎこちない足取りでシャワーのもとへ。

 そこで地べたに腰を降ろすと、背後で恋姫が膝立ちの姿勢になった。シャワーがお湯を吐き出し、一帯を白い湯気で包む。

 いよいよ始まる、ふたりだけのバスタイム。

「じ、じっとしててくださいね? P君。……んっ」

 まさかとは思うも、恋姫はボディーシャンプーを自らスクール水着の胸元へ垂らした。それを両手で泡立てながら、紺色の股布まで満遍なく広げる。

「恋姫ちゃん? もしかして……」

「女の子に恥をかかせちゃ、はあっ、だめですよ? レンキ、頑張りますから」

 色っぽい吐息とともに、柔らかいものが『僕』の背中に重なった。

 スクール水着がじわりと泡を滲む。

「れっ、恋姫ちゃん? そんなことされたら、ぼ、僕……!」

 たまらず『僕』は両手を力いっぱい握り締めた。

 背中で感じる、スクール水着越しの柔らかさと、温かさ。拙いなりに恋姫が腰を打っては返し、びしょ濡れのスクール水着を擦りつけてくる。

「レンキがここまで、あん、サービスするんですからぁ……プロデューサーのお仕事、しっかり頑張ってくれないと……あっ、あぁ?」

 むしろ自分が滑って困るように、彼女は『僕』にしがみついた。

 さほど逞しくもない『僕』の胸に両手を添え、背中に巨乳を押しつけてくる。その位置が高くなると、贅沢な枕にもなった。

「はあっ、どうですか? P君……こういうの、好き……ですよね?」

「だ、だめだよ……恋姫ちゃん? もっと自分を大事に、うぁ、しなくちゃ……!」

 諭そうにも、『僕』にそれだけの余裕はない。むしろどんどん彼女の感触に溺れ、興奮のあまり息を乱す。

 恋姫は『僕』のうなじに頬擦りするように抱擁を深めた。

「ぬいぐるみのP君を抱っこするのと全然、違います……恥ずかしいんですけど、なんだか安心できてしまって……レンキ、変ですか?」

「いや……変じゃないよ? 僕もこれ、き……気持ちよくって……」

 里緒奈や菜々留への罪悪感も、とろとろに溶け崩れていく。

 いつしか『僕』は肩越しに振り返り、スクール水着の彼女を抱き寄せていた。

「きゃっ? P君、何を……」

 理性のブレーキはへし折れ、衝動に突き動かされる。

「背中だけじゃなくって、前もゴシゴシしてよ。こんなふうに」

「ま、待ってください? P君……ひゃう?」

 もう堪えきれず、『僕』のほうから恋姫を抱き締めてしまった。スクール水着の背面を引っ掴んで搾り、薄生地の全体をいっそう潤わせる。

 デルタの下へ脚を差し込むと、大量のソープを一度にかき出せた。

「こ、こら? P君、怒り……ンッ、ほんと怒りますよ?」

「あとでね。それより、どう? こうやって僕にぎゅってされるの……さ」

 降参したのか恋姫も『僕』の身体に腕をまわし、心地よさそうに吐息を色めかせる。

「んはあ……き、気持ちいいです。P君、もっと……強く抱き締め、ンあはぁ?」

 夜中のプールで『僕』たちのスキンシップは自主規制――。

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