第83話

 シャワーを終えても、恋姫は赤面しっ放し。

「どうしてパンツまで脱ぐんですかっ! ヘンタイ!」

「だって、洗うのに邪魔だから……これ言ったの、恋姫ちゃんでしょ?」

「屁理屈を言わないでください! もう……夢に出てきたらどうするんですか」

 それでも『僕』が肩に手をまわすと、素直に怒気を鎮めた。スクール水着一枚の恰好で恥ずかしがりながらも、『僕』にもたれ掛かってくる。

「そ、その……P君? これから水曜と土曜の夜は、レンキとデート……ですよ?」

「わ……わかってるよ。恋姫ちゃん」

 恋人同士の甘い夜。

 だが――『僕』のほうはそれどころではなかった。

(どどっど、どーするんだよォ? とうとう恋姫ちゃんとまで……!)

 プロデューサーとアイドルの行き過ぎた関係は、ついに三股交際へ。里緒奈も、菜々留も、恋姫も、ライバルの存在は知らず、『僕』を独占した気でいる。

 誰かひとりとの関係が明るみになれば、ほかのふたりとの関係も芋づる式に発覚するのは、もはや想像に難くなかった。

 そこから先の想像は――頭が拒絶する。

(今のうちにSHINYの引継ぎとか、遺書に書いとこう……)

 こうして、もっとも過激な一週間が幕を開けた。


                  ☆


 SHINYの快進撃が止まらない。

数字も目に見えて上がってきたため、マーベラスプロの月島社長も大いに喜んだ。

「SHINYこそ新時代のアイドルだよ! この調子で頼むぞ、シャイP!」

 ファーストアルバムは予約が上限に達し、緊急で再販が決定。SHINYのムーブメントに便乗しようと、コラボやCMの依頼も殺到している。

 スタッフも称賛を惜しまなかった。

「輝きまくってるねぇ、SHINY! まだまだ伸びるんじゃないか?」

「SPIRALの有栖川刹那も注目してるって話よ」

 それほどにSHINYは今、エネルギーに満ち溢れている。

 その理由はプロデューサーの『僕』だけが知っていた。

「だめったらぁ、Pクン……あっ? そ、そんなにしちゃ……!」

 月曜の夜は里緒奈とお風呂デート。スクール水着でソーププレイの自主規制。

「もう我慢できないの? Pくんったら、い・け・な・い・子……あっ!」

 火曜の夜は菜々留とシャワーデート。スクール水着でソーププレイの自主規制。

「や、優しくですよ? 優しく……ひあんっ、こら、P君?」

 水曜の夜は恋姫とプールデート。スクール水着でソーププレイの自主規制。

「ねえPクン、もっとぉ……リオナのこと、うんと気持ちよくして?」

 木曜の夜はまた里緒奈とお風呂デート。スクール水着でソーププレイの自主規制。

「遠慮しないで……はぁ、ちゃんとリードしてくれないとぉ、ナナルぅ、んふぁ」

 金曜の夜はまた菜々留とシャワーデート。スクール水着でソーププレイの自主規制。

「だっだから、どうしてまた脱ぐんですか! や、当たって……あはぁん!」

 土曜の夜はまた恋姫とプールデート。スクール水着でソーププレイの自主規制。

「気持ちいいよ、とっても……!」

 以上、今週の愛の軌跡――正しくは『罪の数』かもしれないが。

 里緒奈も、菜々留も、果ては恋姫まで、『僕』との内緒のデートに味を占めたらしい。

ただ、やはり『だいしゅきホールド』で魔力を供給できるようで、アイドル活動の成果は期待以上のものだった。

 罪悪感に駆られる一方で、『僕』のほうも歯止めが利かなくなり、毎晩のように彼女たちを抱き締めている。


 翌日の日曜はSHINYの皆で出掛けることに。

アイドル活動の息抜きも兼ねて、街へ繰り出す。その目的は――下着を買うこと。

「全部Pクンが買ってくれるんでしょ? ねっ」

「落ち着いてったら、もう……。帰ったら、ちゃんと勉強するのよ?」

 里緒奈や菜々留は当然のように乗り気で、恋姫と美玖も文句は多いものの、期待の色を帯びていた。手頃なレディースの専門店を探しつつ、『僕』は彼女らに確認する。

「あのぉ……僕も同行しなくちゃいけないわけ?」

「あら、当然よぉ? Pくんがあんな企画を持ってくるんだもの」

 宙に浮く『僕』を、恋姫がむんずと鷲掴みにした。

「怒ってませんよ? レンキは。ラブメイクコレクションに出演できるなんて、本っ当ぉ~に、アイドル冥利に尽きますので」

「もうそれ怒ってるよ! 助けて、美玖~!」

「妹に頼らないで」

 ファッション業界を牽引する呉羽陽子のラブメイクコレクションに、SHINYの出演が決まったのは、先日のこと。

呉羽陽子のお眼鏡に適ったことは誇らしいが、驚きもあった。

(まさかSHINYが採用されるなんて……)

 ラブメイクコレクションはレディース専門のカタログで、毎年六月に撮影され、秋頃に発売される。これに出演することは、女優にとって大きなステータスとなる。

 しかし、その中身はあくまで『ランジェリーのカタログ』だった。

 ただでさえ世界制服だの、ハイレグのステージ衣装だのを強要しているだけに、メンバーの反応は厳しい。里緒奈や菜々留も眉をひそめた。

「いくらアンチムラムラフィールドがあっても……ねえ? 菜々留ぅ」

「コ、コレクションの撮影は女性だけだから!」

「そんなこと言って、Pくんも混ざるんでしょう? いけない妖精さんねえ」

 結局のところ仕事に関して、彼女たちに拒否権はないのだから、士気も落ちる。しかし『僕』も伊達に業界最大手のプロデューサーではなかった。

「その代わり、ね? 今日のは経費で落とすからさ」

 里緒奈が瞳を爛々と輝かせる。

「新しいの欲しいなーって、思ってたの!」

「また大きくなったんでしょ? みんな。ちゃんと合ってるの着けないとネ」

「なんでサイズ変わってきてるの、知ってるんですかっ!」

 恋姫が火を噴く傍ら、菜々留も嬉しそうに微笑んだ。

「Pくんの厚意を無下にしちゃだめよ? 恋姫ちゃん。それより美玖ちゃんの分は?」

 SHINYの正式なメンバーではない妹は、かぶりを振る。

「ミクはいいってば。間に合ってるもの」

 不公平感が出るのはわかっていたから、あらかじめ決めていた。

「美玖の分は僕が出すよ。ひとりだけ買わないんじゃ、面白くないだろ」

 けれども『僕』の妹は可愛くない。

「そうやって下着を用意して、ミクもラブメイクコレクションに参加させようって魂胆なんでしょ? どうせ」

「ま、まっさかー。妹にそんなこと……」

「目が泳いでるわよ? Pくん」

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