第5話
ほかの部員には本日、招集は掛けていなかった。
定番のSNSラインには、メンバーから愉快なメッセージが綴られている。
『プリン氏、カラオケ来ないのー?』
「寄り道す、る、な、よ……と」
当然、わざわざ司令部まで降りてきたことには理由があった。『僕』は短い手で端末を弄りまわし、正面のスクリーンに街の地図を立ちあげる。
「じゃあ、そろそろミーティングを始めよう」
ここU市は近年、イネーガーの発生件数が異様に増えていた。
原因は『僕』の父がマギシェヴェルトとこの街の境界に大きな穴を空けてしまったこと。その大事件に母親も巻き込まれ、大変な苦労をしたとか。
穴が閉じきるまでは、聖戦士がイネーガーを殲滅しなくてはならない。
その役目を推しつけられた『僕』は、里緒奈、恋姫、菜々留の協力を得て、順調にイネーガーを駆逐してきた。
ただ、すでにイネーガーは世間の知るところとなり、それと戦う美少女戦士ことクリミナリッターも注目を浴びている。
魔法でひとびとの認識を阻害し、ひとまず正体を隠すことには成功した。その応用で、写真や動画に撮られても、普通の人間には見えないようになっている。
とはいえ、正体バレのリスクは常に付きまとっていた。
「僕としては、変身後の名前を変えるのも手かなって……」
「うーんと……ななるは出撃と帰還が見られちゃってるのも、気になるわぁ」
地図のうえではL女学院を中心に行動しているため、司令室の場所を突き止められる可能性もゼロではない。
恋姫がすっくと立ちあがり、セーラー服の裾をまくしあげた。
「まずはこれです! 水着を替えてくださいっ!」
いつでも出撃できるよう、特に彼女は普段からスクール水着を着ている。
「体育の時間とか、大変なんですよ? 早急な改善を要求します」
「えっ? 恋姫ちゃん、また着てるの?」
「出撃の時だけ着替えればいいじゃない? ねえ?」
このL女学院のスクール水着こそ、クリミナリッターのバトルコスチュームだった。有志の間ではすでに目撃情報が精査され、L女学院のものという噂が広がっている。
しかしクリミナリッターのパワーを最大限に引き出すためには、スクール水着のフィット感が欠かせない。四肢の動きも妨げず、戦闘服としては実に優れていた。
「里緒奈と菜々留も、ちゃんと着なさいったら。交替で備えるって決めたでしょ?」
「心配性ねぇ、恋姫ちゃんは。イネーガーだって、そんな毎日……」
スクール水着の是非について議論していると、司令室にアラームが鳴り響く。
「お出ましよ! お兄様!」
クリミナリッターの司令官として、『僕』は今こそ号令を放った。
「みんな、出撃だ!」
里緒奈たちは宿題を放って、専用のドッキングエリアへ駆け込む。
「クリミナリッター・リンク・オン!」
変身の呪文を唱えるとともに、彼女らの制服がスカートだけ剥がれた。セーラー服は裾を短くして、パワーの源であるスクール水着を露出させる。
四肢には光の粒子が集まって、瞬く間にグローブやブーツを形成した。華やかなリボンが結ばれ、C等部の妹たちを無敵の美少女戦士へ変貌させていく。
胸は十センチ、さらに二十センチと膨れあがった。彼女たちの深層心理にある願望が反映されるようで、身体つきも艶めかしいものとなる。
(頼もしくなったなあ、みんな)
妹たちは輝かしい姿で地上に出て、それぞれ色違いのファミリエに跨った。これは母が研究を重ね開発した、クリミナリッター専用の支援機。
体育館の屋根が展開し、進路をクリアにする。
「クリミナリッター、出撃っ!」
一度はプールの水でびしょ濡れになりながら、クリミナリッターたちは夏の青空へと飛びあがった。それを見つけ、L女の新聞部員は慌ててシャッターを切る。
「まただわ、クリミナリッター! やっぱりうちの生徒なのね?」
一方、司令室で『僕』は呆然としていた。
「……あ? ま、待って~!」
ネーグを吸収する『僕』がいないことには、イネーガーは倒せない。
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