第2話

 その日の放課後も、妹たちは『僕』の家に集まる。

 けれども妹の美玖はひとりだけ置いてきぼりにされ、退屈していた。兄の『僕』まで一緒に出ていったものだから、帰宅早々、疑惑のまなざしで迎えられる。

「兄さん、里緒奈たちは?」

「え? 僕はコンビニに行ってただけで……」

 しどろもどろになりながら、『僕』は自分の部屋へ。

 それから五分ほど経ち、妹の友達も続々と戻ってきた。居間のほうから声が聞こえる。

「みんなして、どこに行ってたの? 映画の途中だったのに……」

「ごめん、ごめん。アイス買ってきてあげたから……えいっ!」

 しかし急に美玖の声だけ途切れた。

 またいつもの『魔法』で誤魔化してしまったらしい。居間に妹を置いて、ほかのメンバーは『僕』の部屋へ入ってくる。

「もう帰ってるんでしょ? お兄様」

「う、うん……」

 美玖の気配がないのを確認してから、『僕』は妖精のプリンに変身した。

 デフォルメされた猫みたいな風貌で『キ〇〇ーちゃん』に似てるとか。背丈は五十センチほどだから、年下の女の子にも軽々と抱っこされる。

「りおなはこっちのほうが好き! エヘヘ」

 菜々留や恋姫も近づいてきて、『僕』の抱っこ権を争った。

「あらあら……次はななるにも抱っこさせてね? 里緒奈ちゃん」

「ちょ、ちょっと? れんきにも……少しくらいは」

 柔らかい女の子に抱き締められるのだから、男冥利に尽きるはず。しかしプリンの姿は男子の身体ではないせいか、単に苦しいだけだった。

 圧力も凄まじい。彼女らはまだ変身を解いた直後で、胸のサイズが戻っていない。

 制服も前を閉じきれず、大胆なまでに開け放たれていた。紺色のスクール水着も伸びきって、ぱっつんぱっつんになっている。

 クリミナリッターリオナ、バストは117センチ。

 それからクリミナリッターレンキ、バストは118センチ。

 さらにクリミナリッターナナル、バストは119センチ。

 変身の際に本人の願望が反映されすぎて、C等部の女子一般から逸脱した『爆乳』を形成してしまうのだ。元に戻るまでは時間が掛かる。

 これを誤魔化しきれないため、妹の美玖は魔法で眠らされもした。

 常識ある恋姫が爆乳をかき抱きながら、ヌイグルミのような『僕』を責める。

「お兄さんのせいですよ? こんないやらしい変身だなんて、一言も……」

「し、知らないって! ほんと、ほんと」

 三人分、計むっつのおっぱいに囲まれ、『僕』はたじたじに。

(本人の願望って話したじゃないか……はあ)

 もちろん、それが禁断の果実であることは百も承知。

 ただでさ『僕』はもてるほうではなかった。学校でも大して目立たず、集団の中に埋没している。しかしヘタレとはいえ、兄貴としてのプライドくらいはあった。

 妹の友達に手を出すなど、するわけがない。できるわけがない。

 たとえ――目の前に今、魅惑の膨らみがあっても。

(こっちの身体だと我慢できるもんな)

 『僕』はヌイグルミのような身体でデスクの上に立ち、妹たちと目線を合わせた。

 正しくは『妹の友達』だが、物心がついた頃からの付き合いで、彼女らにも『おにーちゃん』などと呼ばれている。

 とりわけ最近は件の美少女戦士として覚醒したこともあり、週末は大抵一緒にいた。おかげで『僕』の部屋にも頻繁に出入りされ、お色気漫画の一冊も買えない。

 菜々留は今日もおっとりとした調子で、頬に手を添えた。

「司令部のほうでお話しない? お兄たま」

 妹たちの間でも大人びた容姿なのに、園児のように『僕』を呼ぶ。

「ななるお姉ちゃんが抱っこして、あ・げ・る・か・ら」

「年上なのはこっちなんだけど」

 それに対し、恋姫はきびきびと言い放った。

「あとにしてったら、菜々留。お兄さんが真面目にしてるうちに、ほら」

 根っからの優等生タイプで何かと進行を務めたがる。でも可愛いものには目がない。

「いつだって僕は真面目にやってるつもりなんだけどなあ……」

「説得力がありませんよ? お兄さん」

 曲がりなりにもK等部生にもかかわらず、『僕』は彼女たちに頭が上がらなかった。

何しろ本来は女っ気のない立場で、妹の友達に『お情け』で仲良くしてもらっているに過ぎない。傍から見れば、ロリコンの称号を欲しいままにしていた。

そして真中に座っているのが、ムードメーカーの里緒奈。

「そーだ! アイス、冷凍庫に入れとかなくっちゃ」

 慌てて『僕』の部屋を飛び出し、台所からUターンで戻ってくる。朗らかで能天気、少しおっちょこちょいなところは、幼い頃から変わらなかった。

 三人ともL女学院のC等部生で水泳部に所属している。

 そして『僕』はまったく関係のない共学に通っていながら、L女学院の水泳部にも『プリン』の姿で、顧問として籍を置いていた。

「なんか最近、イネーガーが多いって思わない? お兄様。今月でもう三度目なんだもん。授業中とか、ほんと止めて欲しいんだけどー」

「理由があるんじゃないんですか? お兄さん。白状してください」

「白状だなんて……何でもかんでもお兄たまを疑うのは、よくないわよ? うふふ」

 妹たちが前のめりになって、たわわな巨乳をぶらさげる。

 おかげで『僕』はたじたじに。

「そ……それより? パワーの補充と武器のメンテ、さっさとやっちゃおうか」

 クリミナリッターのサポート、それが『僕』の仕事であり、使命だった。

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