妹がオカズすぎて僕は××を我慢できない

飛知和美里

第1話 変身ヒロイン編

 この街には伝統の由々しき名門女子校がある。

 そこには見目麗しい女子生徒たちが集い、うら若い花を咲かせていた。

 名をL女学院――その学び舎はごく一部から『要塞』とも恐れられ、ネズミ一匹の侵入さえ許さない。とはいえ門戸は意外に広く、それなりの成績であれば入学できた。

 『僕』の妹も通っている。

 より正確には『僕』の妹と、その友達が通っている。

 しかし男子の『僕』は当然、別の学校に在籍し、本来はL女学院の空気など知るはずもなかった。ところが大変な転機が訪れる。


 昼過ぎの街中で、またも事件が発生した。三メートルはあるクマのヌイグルミが警官を気取って、迷惑駐車をガン、ガンと殴りつける。

『悪い子はいねぇーがあ!』

 イネーガーの出現。モンスターは奇声をあげ、破壊を続ける。

 ひとびとは怯え、走れる者は逃げ出した。

「うわあああっ!」

「きゃああ! イネーガーよ!」

 可愛い見た目とは裏腹にイネーガーは凶暴で、今までにも多数の怪我人が出ている。

一時は警官の発砲も許可されたものの、未知のモンスターに重火器の類は一切通用しなかった。むしろ下手に刺激すまいと、警官も及び腰になる。

だが、通りすがりの園児は信じていた。

「大丈夫だよ、みんな。クリミナリッターが来てくれる!」

 ひとびとは戦士の名にはっとする。

 逃げ遅れた老婆を、イネーガーが爪で引き裂こうとした瞬間――閃光が走った。小柄なシルエットがイネーガーの懐に飛び込んで、力任せにふっ飛ばす。

「グフォッ?」

「悪い子はそっちでしょ、クマさん!」

 間髪入れず、強烈なまわし蹴りがイネーガーの横っ面にクリーンヒットした。

 美少女戦士の登場に大きな歓声が沸き起こる。

「クリミナリッターが来てくれたぞ!」

 少女はピースを決め、あどけない笑みを弾ませた。

「イェーイ! このクリミナリッターリオナが来たからには、安心してよねっ」

 その後ろでイネーガーが起きあがり、漫画みたいな青筋を立てる。

「悪い子はおめぇーがあ!」

 しかしいきり立ったところでモンスターは動けなかった。いつの間にやら長いリボンに巻かれ、胴を縛りあげられている。

 リボンを操るのは、二人目の美少女戦士。リオナより大人びた印象はあるものの、舌足らずな声がギャップを生む。

「いっくわよぉ? アリスティアリボン、シュート!」

 イネーガーの巨体は軽々と浮き、放り投げられた。

その落下に合わせて、クリミナリッターリオナがアッパーカットを放つ。

「ええーいっ!」

 モンスターは宙でくの字に折れ、きりもみしながらビルの外壁に叩きつけられた。

「あらあら……あとで、お兄たまに修理してもらわなくっちゃあ」

 それでもタフなイネーガーは倒れず、咆哮を轟かせる。

「悪い子はいねぇーがぁー!」

「静かにしてください。街のど真中ですよ? ……ルンタタロット!」

 その足元に魔方陣が浮かびあがった。

 六枚のタロットカードがイネーガーを包囲しつつ、青白い電流を繋ぎあわせる。三人目の美少女戦士が印を切ると、魔方陣がスパークした。

「塔のカード!」

 稲妻がイネーガーを焼き尽くす。

 クマのヌイグルミでもある怪物の姿は、痛々しい有様に成り果てていた。観衆の誰もが『ちょっと……』と戸惑う中、クリミナリッターリオナが剣を呼び出す。

「エンゲルフリーゲル! くっらえ~!」

 剣から光線が放たれた。

 今度こそイネーガーは胴体を貫かれ、消滅する。

「上出来よぉ、リオナちゃん」

「ナナルたちがサポートしてくれたおかげだってば」

 クリミナリッターたちはハイタッチを交わし、完全勝利に酔いしれた。

 中学生のような顔立ちでありながら、そのプロポーションは抜群。しかも彼女らのバトルユニフォームは『スクール水着』をベースとし、紺色の生地がお尻に食い込む。

 胸など、よしんばメロンのごとくなどという比喩さえ追いつかなかった。スクール水着の中にバレーボールでも詰め込んでいるかのようなボリュームが揺れ弾む。

 今日も彼女たちのファンサイトでは『クリミナリッターはぁはぁ』なる不埒なコメントが飛び交うことだろう。

 ギャラリーの何人かはケータイを向け、シャッターを切る。

しかし美少女戦士の姿が映像に残ることはなかった。

 健全な園児たちは興奮気味に手を振る。

「ありがとう、クリミナリッター! すっごくカッコよかった~!」

「応援ありがとっ! またね!」

 クリミナリッターたちは声援に応えつつ、超人的なジャンプ力で青い空へ消えた。

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