#-16
一方、その頃。
美由は公園にはおらず、とある場所に向かって森を歩いていた。
「あっ、私の血は白虎が七十五パー、猫又が二十五パーのクォーターだから!」
『どしたの、美由』
誰に言うでもない、突然の発言に美由の背中に乗る半透明の姿の白と紫のメッシュ髪の少女、故が問う。
「いや、なんか不意に言わなきゃならない気がして……」
『そういう第四の壁を乗り越える行為というか、メタ発言は控えたほうが良いよ。それに状況考えて言わないとシリアスな話から来た人が空気が違い過ぎて風邪引いちゃう』
「アンタにだけは第四の壁とかメタ発言とか言われたくないわね」
たまにある美由の悪い癖だ。
たしなめるように故は言うが、だが故も他者のこと言えたクチではなく。
美由は透かさず言い返す。
『なんて話してると、ほら着いた』
そして言うだけ言って話を逸らす。
美由とは違う、大きさはネズミのようだが形はネコ科の、リボンと言うのがしっくりくる耳をハタハタと動かしながら涼しい顔をしている。
彼女はとある世界で若きながら〝獅子〟という将の名を頂くほど優秀な戦士で、そこは疑う隙が無く、事あるごとに美由に智を授けている。
なのだが自身がこの世界で戦うことは皆無なため、普段抜けない気をこれでもかというぐらい抜いている。
「どっちが猫よ、全く」
『何か言った~?』
「別に」
そんな話は置いておこう。
辿り着いたのは開けた草原で奥には工場のようにも研究所のようにも見える建物があった。
「レキの読みは当たってたわね」
ここは国の少し外れにある、依頼された森とは真逆に位置する場所。
「おそらくあるであろう研究所を探してほしい」とレキに言われ、単独行動をしていた。
ただ研究所の明確な場所はレキでもわからなかった。
なので国の外周を一周する気でいたのだが、杞憂に終わったことに美由は安堵する。
「どうせ国長を煮るか焼くかでもしてんるんでしょうし、発見は早い方が良いわよね」
なんてぼやいていると、急に伸びてた故の目がカッと開かれた。
「美由」
「わかってる、わかってる」
手をひらひらと動かし、気を抜いたような感じで美由は故の忠告を聞き届ける。
ただ目の前に敵対者が見えた瞬間、その腑抜けた態度は風邪と共に消えた。
「無益な殺生は柄じゃないんだけど、これも生きるため」
簡単な武装した人が数人、美由の目の前に集まる。
手に持つアサルトライフルの銃口はコチラに向けられている。
強靭な筋肉を持つ妖と言えど、銃弾に耐えれる身体は無い。当たれば重体。
なのに美由は臆せず歩み詰める。
「てー!」
ふと突風が吹く。
それを狼煙とし、おそらく隊長格の者だろう。発砲の合図を出す。
鳴り響く怒涛の銃音。
それが約十秒ほど、弾が切れるまで続き、あたりの自然の香りなんて火薬の匂いで掻き消されてた。
土煙が少し薄れた頃、スコープを付けた隊員が煙の中を覗く。
そこに美由の姿はなかった。
「対象消滅!」
嬉々として報告する隊員。ただ隊長は「出来れば捕獲しろ」と人を受けていたからか、少し表情を曇らせた。
殺すにせよ、生かすにせよ、彼らが彼女を捕えられる可能性は皆無に近いのに。
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