#-17

「ごめんなさいね。運が無かったとでも思って諦めて」


 ふと隊長の横から女の声が響く。


「だ、誰だ!?」


 振り向くとそこには桃色髪の妖、美由がいた。


 隊長は目を見開き、攻撃の合図を出そうと口を大きく開ける。

 だが声が発せられるより早く、その喉ぼとけを美由は斬った。


「う、うわアアアァァァぁ!」


 隊員の誰かがその状況を見て発狂し発砲する。

 しかし乱射された銃弾は美由には当たらず、反応が遅れている仲間へと打ち込まれる。


「あ、あぁ? なんで……」

「そこに私がいないからよ」


 再びいつの間にか隊員の横に立っていた美由がそう簡単に答えを教えると、彼が振り向くより早くその身体を二つにけた。


 そして次の隊員に気付かれるより早く、風となり姿を消す。


 風との同化。

 それが美由の属性、風の能力だ。


 そして辺りの草原が赤に染まった頃、美由はカバンから狼煙筒を取り出す。

 本当なら何かしらの方法で連絡を取りたいのだが、生憎この世界には遠隔で連絡する術は確立されていない。


 青色の煙が空へ上る。しばらくすればレキたちが文字通り飛んでくるだろう。

 ただそれは発見してからの話。まだ話をしているならしばらくは暇だ。


「暇はやだな~……」


 美由はふと研究所に目を向ける。

 先に行ってようかな……。


 そう考えた矢先である。

 研究所から美由の何倍もある蒼い巨体が彼女の目の前に飛んできた。

 両肩には顔と同じく犬のような顔が付いており、更によく見るとSの刻印が刻まれている。


ホムンクルス機械人形!? そんな技術まで持ってるの?」


 美由が驚いている隙にホムンクルスは拳を振るってきた。

 咄嗟に後ろに跳び、美由はその攻撃を避ける。


 先程まで美由がいた場所はドリルで抉られたような感じになっており、持ち上げられた手には拳ではなく、ナットのようなモノが取り付けられていた。

 かなりのチュ-ンアップを施されていることを知る。


 しかもあの巨体。さっきのようなヒットアンドアウェイは通じないだろう。

 得意な戦法を封じられるのはなんとも歯がゆさを覚えるが仕方ない。


「故!」

『あいよ!』


 相方に声をかけ、その能力ちからを借りる。

 今度は一昨日のように刀だけではなく、身体全体に彼女を纏う。身体に纏った青い光は白く煌めく衣に姿を変え、準備が整った彼女は空へ跳ねた。

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