#-10

「数年……いや厳密には五年ほど前でしょうか。昔この国で蜘蛛の妖を捕えたりしませんでした?」


 なるほど。

 その問いを聞き、国長はこの雰囲気が、そして少年の目がなにか理解した。


 そう、あれはまるで獲物を品定めする獣のような目だ。

 獲物は餌。殺すという概念ではなく喰らうという概念。そこに殺気は必要ない。


 確実な信念を持って聞いているその問いをはぐらかすことは出来ないだろう。

 しかし方向を変えることは出来る。


「……どうしてそんなことを聞くんですか?」


 問いに問いを重ねてきた。

 ということは思い当たるところがあると言うわけだ。


 どうにも会話の持って行き方が下手なのは場慣れしていないからか。それとも焦っているからか。

 どちらにせよレキにとっては格好の餌でしかないのだが。


「あのアラクネ。人では無かったです」

「妖だったと?」


 レキは首を横に振る。そして聞きたくない答えが国長の耳に届いた。


「いえ、混血です」

「な、なぜそんなこと――」

「そう言えば。討伐対象がいた、この国の隣に位置している場所にあった森。あそこももしかしたら国の一つだったのかもしれませんね。結構大きかったし」


 これ以上はぐらかされると時間が何時間あっても足りなくなる。

 そう判断したレキは強引だが自分の話を進めることにした。


 そして更に顔色を悪くする国長。宣言はしていないがチェックメイトだろう。



 戻らなかった二日の間、レキたちは森の中を探索した。


 最初は木々が多く、あまりしっくり来なかったが、深部に進むにつれ、誰かに作られたような物が散見するようになる。

 そしてとある場所に辿り着いた瞬間、ここは森ではないということに気付いた。


 そこは複数の家が建てられている集落。

 おそらくこの国の中心街になる場所なのだろう。中には人の文化を真似たのか、ビルのような建物も存在した。


「何が言いたい」


 ただそれを見てレキは何か引っかかる。


 集落の生活跡を見て、そこで生活していたと見られるのは数年前。

 ビルの中ももぬけの殻で、埃が募っており、素人目で見ても近年は誰も手を付けていないことは明らかだった。


 アラクネが仲間、と言うより親族と言ったほうが良いか。奴らを恨んでいたのは解明されている。

 だからと言って国一つを滅ぼす真似なんてするか? しかもヒトリで。


 そう。そこから導き出される答えは一つしかなかった。


「言わなくてもわかるでしょ。実験場にしたんでしょう? あの国」

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