#-09

 それから二日後の昼。

 国に帰ってきたレキは美由を連れず、一人で国長の屋敷に訪れていた。


「おぉ、無事帰ってきましたか!」

「えぇ。依頼、完了しました」


 明かりが照らされていない部屋に明るい声が響く。


 安堵か。それとも討伐されたことにか。

 国長は男にしては少し気色悪い、感無量な表情を浮かべる。


 感情を殺した表情で淡々と報告しているレキにも気付かず、ただ一人、悠々と。


「いや~、良かった良かった。これでみんな安心して夜寝れます」

「それはどうも。ところで――」

「おぉ、皆まで言うな!」


 話を遮った国長は何かを探し始める。そして机の下から出てきたのは大きな布袋。

 零れ開いている口からは大量の金貨がチラついている。


 そのような話をするために切り出したのではないのだが。レキは少し肩をすくめた。


「報酬の金一〇キロだ。金貨だが、そこは目を瞑ってくれ」

「たしかに。ありがとうございます」


 袋を手に取るわけでもない、秤で量ることを頼むでもなく、レキは事務的な応答のように礼を述べる。


 それに対して国長はなにひとつ疑問を抱かない。

 いまはアラクネが退治されたことに歓喜したい気持ちでいっぱいだからだ。


「まぁ、それは置いといて、少しお話がしたいのですがお時間はよろしいですか?」

「話? えぇ、別に構わないですよ?」


 だから、このように場に水を差すような言葉を聞くと回答とは反対に怪訝な表情になる。

 対し、レキは今日ここに来て初めて自然に笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。明かり、付けますか?」

「いやいや、アポロが雲に隠れずこんなに照らしてくれているんだ。明かりは必要ないでしょう」

「そうですか」


 目でも悪いのか。

 と国長は少し疑ったがただ話をするだけだ。配慮せずに理由を述べた。


 アポロとは、とある王の名から取り、付けられたものだ。

 照らしている、と言うことはその王が見ていると言い変えても過言ではないだろう。


 全く、面白い奴だよ。アンタは。

 微笑むレキの口角が少しだけ上がった。


「どうぞ、お座りください」

「いえ、すぐ終わる話ですので」


 勧められた着席を断った時はまだ笑っていた。

 変わったのはその折目を閉じ、そして開いた次の瞬間だ。


 国長は全身の汗腺が一気に開いた感じを抱いた。

 殺気ではない。だが、なにかそれに似た雰囲気を目の前の少年から感じた。

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