#-06

 場所を移す、と言い、移動を始めた国長について行くとコロッセオのような周囲の客席が試合場を見つめることが出来る屋根付き木製闘技場に連れてこられた。


 観客席には少数だが観客がいた。

 試合場に立つ二人は対戦相手と助手か。


「なんですか、国長。今回の相手はこのチビですかい?」


 開口一番大声で笑う対戦相手の男。右手には大きなカットラスのような剣が携えられている。

 ただ握るその手はあまりにも綺麗で、あまり訓練を積んでいないことをレキは見抜いた。


「あぁ、なんでも旅り鳥らしくお金がいるんだとよ」

「へぇ~。若いのに苦労してるな、兄ちゃん」


 同情。かと思ったら剣を持ち上げ地を叩き斬った。


「でも手は抜かねぇぞ? 俺もこれで食って行ってんだからなぁ……」


 なぜコイツはわざわざ手の内を明かしたのだろうか。

 ただ挑発だけしておけば、まだ一撃目を見るまで動かなかったものの。


 レキは落胆の息を吐くと相手に指をさし、国長に問う。


「この人を倒せばいいんですか?」

「えぇ、そうすれば依頼を受注することを承認します」


 依頼している側だと言うのにえらく上から目線な発言だ。

 少し鼻につくがレキは頷き、彼の言うことを聞きいれた。


「彼女もこれ、する必要あります?」

「どちらでもいいですが、お望みならば」

「だってさ。どうする?」

「きゃー、やだー、やばーん」


 超棒読みで美由は不参加を表明する。

 レキはどの口が言っているのか疑っていたが、ある意味国長に対する忠告だったので良かった。


 というか、こんな茶番を国長達は信じているという現状に愕然とする。すごく程度が低い。

 もしかして自分が難しく考えすぎてるだけで、あんがい世界は単純なのかもしれない。


 と思い直しかけたレキだった。


「そんなはず、あるわけないか」


 そう小さくぼやくとレキは気を取り直して相手の方へ向き直す。


ハンドピース武器の貸し出しはありますか?」


 聞かれた国長は、彼の腰にぶら下がるナイフホルダーに目を向けたが、相棒を使いたくないのだろう、と察すると微笑した。

 その傲慢どこまで持つかな、と。


「何を望みます?」

「ナイフを」


 そう望むと国長は係りの者に目で合図を送り、ナイフを手配させる。


「何本いる?」

「一本」


 国長も係りの者も相手の者も観客もみな正気を疑った。


 通常、ナイフは投擲に使われる武具だ。複数本持ち、ヒットアンドアウェイを狙うのが定石だろう。

 たとえ斬撃武具と扱うとしても、それは夜襲や暗殺などの隠密行動に限る。長剣相手に取る選択ではない。


 だが彼は一本で良いと言った。

 それは投擲武具としてではなく、斬撃武具として扱うと言う現れ。


「わかった。受け取れ」


 眉をひそめながらも、彼が望むならと係りの者はレキに向かい一本のナイフを投げる。


 空中で回るナイフ。

 その中で左の指を一本、刃に滑らせたのち、右手でキャッチした。

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