#-07
「お、お前、何を……?」
左手の指から滴り落ちる血を見て、相手の者は更に戦慄する。
いや、相手だけではない。
辺りにいる美由以外の誰もが一歩誤ったら指が飛び散るその行為に恐怖を覚えていた。
「別に。切れ味を確かめただけだよ。ナマクラ渡されちゃ困るし」
傷付いた指を舐めながらレキは笑う。
あ、これ完全に別次元の奴だ。
相手の者はそう理解し、国長を見るも、国長は首を横に振り棄権を承諾しなかった。
「じゃあ、そろそろ始める?」
「お、おう……」
いや、怖がっていては何も始まらない。もしかすると演技かもしれない。
そう自分に暗示をかけて相手の者は勝負を挑む。
もはやどちらが挑戦者かなんて、考える余裕すら無かったが。
その実力差は言うまでもなかった。そもそも経験値が違い過ぎる。
初動。
レキは自身の地を蹴ったと判断した瞬間、血を纏う拳を伸ばし、相手に襲いかかる。
利き手ではない上、怪我をしている手だ。躱すのは容易。
高を括っていたわけではないが、瞬時にそう判断した相手は身体を逸らし、容易く拳を避ける。
それがレキの狙いだった。ニヤリと赤い眼が細くなる。
避けられたことにより持ち主の方へ戻っていく拳。
その最中、レキは親指で零れる血を弾き、相手の顔に付着させた。驚きと恐怖が相手の心の中で弾ける。
血は命の水。それが溢れ出ていると言うことは生命が欠けてきていることを意味する。
死への恐怖は全動物共通して言えること。その一端に触れるのだ。慣れてない奴はもれなく戦意喪失するか発狂する。
相手はどうやら前者だったようだ。そのまま繰り出したレキの回し蹴りは直撃し、相手は呆気なく場外へ叩き出された。
「呆気ないなぁ……」
その肉を切り骨を断つような戦い方に周囲の者全員は恐怖を覚えていたが、付き合いが長いからか、美由だけは大きくあくびをしていた。
「これでいいですか? 結局ナイフ使いませんでしたけど」
レキはポケットから布を取り出し、傷口に巻き付ける。
血を封じた、つまりハンデを施したということだ。
安い挑発。
だがそれに乗るほど相手の者の度胸は座っておらず、短く悲鳴を上げるとその場から駆け抜け、逃げていった。
ナイフを上に投げ、キャッチする遊びを繰り返しながらレキは国長の方へ向き直す。
「ご、合格だ! 君たちに依頼を承諾しよう」
正直な話、国長は討伐対象よりコイツの方が恐いと感じていた。
強大な力を持つにはそれ相応の覚悟がいるとはこのことか。国長は微笑むレキを見て固唾を飲んだ。
国長のその見立ては間違いではなかった。
レキはアラクネ程度が敵う相手ではない、優秀なジョーカー。
おそらくあのコロッセオ出身の歴戦の挑戦者たちが束になっても勝負にならないだろう。
それは会って間もないアラクネも理解するほどだ。
ただ国長もアラクネもとある一点を見逃していた。
時間は夜に戻る。
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