第13話 ニート 辞めるってよ
【小料理屋 わかめ】
「いらっしゃい」
「元瀬で予約してます。」
「はい、お連れの方はお先に来ています。そちらのカウンターです。」
そこには既に煙草を吸ってるスーツ姿の勝則さん姿があった。元瀬は勝則さんに近づいて行くと勝則さんは気づいて先に挨拶をした。
「よっ、久しぶり」
「おひさー」
元瀬は隣の席に座り、煙草を取り出した。
「元瀬から飲もうって誘われたの今回初めてじゃない?」
「ふぁい?」
元瀬は煙草を口に咥えている。元瀬は口に咥えた煙草に火を付けてから一息付いて、答えた。
「そうでしたっけ?」
元瀬の返答と一緒に甘い煙草の匂いと煙が広がった。
「そうだよ。俺ら割と長い付き合いのはずなのにな。で、ニートでも辞めたの?」
「辞めました。晴れて私は就職してエンジニアになりましたよー」
元瀬はない胸を張って言った。
「おめでとう。なら、ここ就職祝いで奢るよ。とりあえず飲もうぜ。レモンサワーだろ?」
先に着いてた勝則さんは既にいくつか注文してくれてたようだ。
「あざーっす。」
二人はジョッキとグラスを持ち打ち鳴らした。
「「かんぱーい」」
ビールとレモンサワーで祝杯を上げた。
「でも、何でエンジニアに?」
勝則さんは、新たな煙草に火を付け聞いた。
「以前会った時に、勝則さんがプログラミングスクールの話をしてたから入ったんですよ」
「あぁ〜、それで就職したって事かー」
勝則さんは納得した顔をしつつ頷いた。
「いえ、速攻辞めて返金して貰いました。」
勝則さんは驚いた。
「え、なんで?」
「いや〜、キャリアカウセリングで想定年収は低く設定されるし、メンター制度って質問出来るシステムがあるのに質問が全然返ってこないので辞めましたわ。」
元瀬は苦い顔をして答えた。実際苦い思い出だろう。
「それは辛いね。ちなみ想定年収っていくらにされたの?」
「大卒、文系、資格、職歴なしなので300に設定されました。多分、学歴、資格、職歴で判断されるのでアップ出来ないと悟り辞めました。」
「んで、スクール辞めたのにどうやって就職したのよ?」
「ふふっ…女は秘密を着飾って美しくなるのですよ…」
元瀬は口元に人差し指を当て出来る女のつもりなのだろう。
「はいはい、元瀬さんはおきれいですよー」
煙草を咥えて呆れた声と顔で勝則さんご返答をした。
「知ってます。褒められたのでお教えしましょー」
またない胸を張り、元瀬は語り始めた。
「パチスロニートの経験を活かして情報の収集と分析をしたのです。プログラミングスクールって学歴にならないし、私の場合は職歴をいきなり付ける事は不可能なので資格を取ったんですよ。」
「資格ってそんなに簡単に取れるの?」
「IT系の資格ってピンキリで国家資格は半年に一回ですが、申し込みすればすぐに受験可能な資格もあるので取得自体は勉強しておけばすぐに取れますよ。」
酒が入ってきたせいか口がよく回る。
「それでスクールを使う利点になってる就職支援って求人出してる会社側からする結構辛いんですよ。採用決定すると年収の30%程スクールに採用費用って事で出さなきゃいけないんですよ。私の場合300で出してたら90くらいですね。」
「うちの工場はハロワと求人広告で転職支援とか使わないからなー」
「なので私は求人サイトなどを利用して…」
「求人サイトに登録したんだな」
勝則さんは答えがわかったのか被せるように言った。
「ぶぶー、正しくは利用して情報を漁って直接会社にアポ取ったんですよ。」
元瀬は勝則さんの誤回答を笑い、得意気だ。元瀬は悔しそうな顔の勝則さんを見て気分良く語り続けた。
「あぁー、求人サイトを利用しても採用費用取られる場合があるのか…」
「そうです。あと中小企業だと採用費用が掛けられないって自社のHPやハロワくらいしか求人出してないところもあるので情報集めまくりましたよ。」
「普通に利用したのかと思ったけど、行動力凄いな…」
元瀬の行動力に、聞いてる勝則さんは驚いていた。
「それです。そうする事によって行動力のアピールにもなりますし、求人サイトを通さないことによって企業側のコストも抑えられます。後は面接では職歴なしなので必ず空白期間の事を問われるので包み隠さずにちゃんと『パチスロニートしてました』って言うと正直者って事で割と好印象与えられたと思いますね。」
パチスロニートという、どうしようもない単語を誇らしげに発する元瀬。
「正直って大事…嘘の報告する人とか居るからねぇ…」
勝則さんは煙草の煙を上に吐き、紫煙の行方を追いながら悲しげに言った。
「まぁ、こんな感じに私はエンジニアとして就職しました。」
またない胸を誇らしげに張る元瀬。
「で、最終的な年収は?」
「女は秘密を着飾って美しくなるのです…」
「わかった。聞かないよ。」
勝則さんは持ったビールジョッキを元背のレモンサワーのグラスに当てる
厚いジョッキ、薄いグラス、残った氷の音が鳴る。
「就職、おめでとう」
勝則さんは古い友人の就職を祝って優しい笑顔で言っていた。
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