第7話 何が違うの?

勝則かつのりさん…」


 翔太郎しょうたろうくんは差し出されたジョッキを一瞬戸惑ったが受け取った。


「じゃあ、乾杯」


翔太郎しょうたろうくんは軽く口を付けた。勝則かつのりさんは一気に半分ほど飲んだ。


「ぷはぁ~、美味い」


勝則かつのりさん何でここに?」


「馴染みの店に来るのに理由は要らないだろ?」


 そう答えつつ、勝則かつのりさんは胸のタバコを取り出し、火をつけ、大きく吸って、煙を吐いた。


「はぁー…で、何かあったの話してみてよ?君の近況が気になるな」


 勝則かつのりさんが吐いた煙はゆらゆらと渋い匂いを漂わせている。翔太郎しょうたろうくんの様子を察してか聞いたのであろう。そして、翔太郎しょうたろうくんは今日面接先で言われたことを語り始めた。


「エンジニアになるの諦めようかと思いまして…」


「エンジニアになりたいと言って会社辞めたのにどうしてだい?」


「今日も面接に行ったんですが…面接官は僕と同い年くらいの女性に見えました。名前は黒井くろい 善子よしこって方で背が低くスーツ姿が可愛いツインテール。」


 翔太郎しょうたろうくんは語り始めたが本題に入るのか嫌なのだろうか前置きが長い。


「面接官の容姿は重要だね。特に可愛い女性だとやる気出るよね」


「まぁ、いつもの面接の通り経歴や今までの勉強内容や趣味とか軽く話してたんですよ。」


「問題なさそうじゃん」


「その後なんです…その黒井さんから『うちは雇う気はない』と言われました。」


「きついね…理由は聞いたの?」


「理由は『能力の証明がなんらなされていない』からです。」


「能力の証明って資格取ったりとか?」


「僕が行ったプログラミングスクールは資格を取るとかありません。プログラミングを教えてくれました。で、覚えたプログラミングを駆使してポートフォリオを作るんです。」


「ごめん、ポートフォリオって何?」


「ポートフォリオってエンジニアが力を証明するために作るサイトの事ですね。それを面接してもらう会社に経歴書と一緒に見てもらって出来るか、出来ないかを会社は採用の判断に使んです。」


「エンジニアとしての力を証明するために作品を見せるってことね」


「はい。それで、黒井さんに言われたのが『ポートフォリオが』と言われました。『創意工夫が一切なく、他の人と差別化する事も出来ない』と…」


勝則かつのりさんは静かに頷きました。


「少しわかるな…新入社員やアルバイト、パートとかは教えることを前提に雇うんだよね。ただ中途入社などの場合は高い給料を払うことが多いから『出来ます』『やります』言われても資格や今までの業務実績がないと信用出来ないんだよね…」


「同じようなことを言われました。あと『希望年収も前職年収より上げているというのは何故か?』と言われてちゃんと答えることが出来ませんでした。『エンジニアになれたらこんだけ貰えるだろうと思ったの?』と言われて…」


「野党側としては全くの別業種で全然知識がない人を雇うなら新卒と同じ年収にしたいよね。」


 翔太郎しょうたろうくんの見通しは甘かった。プログラミングスクールに通ってプログラミングを覚えたら難なく就職してエンジニアになれると思っていたのだ。


「なぁ、翔太郎しょうたろうくん本当にエンジニアを諦めるのかい?」


「高いお金払って時間も使ったので未練がないとは言えません…」


「なぁ、翔太郎しょうたろうくん今度は僕がこの数ヶ月やって来たことを話していいかい?」

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