第8話 新たな道

「僕は少し前、部下に『だから年収が低い』と言われてね。で、その子は力はあるんだよ。自分の業務だけではなく、誰が休んでもいいように工場の全業務こなせるように教えこんだしね。」


 部下とは翔太郎しょうたろうくんの事を指しているのだろう。勝則かつのりさんは自慢げに部下の事を語った。


「でも、年収が低いかっただろうからか辞めたんだ…本当に寂しかった…」


 勝則かつのりさんは席の上に漂う紫煙を見つめていた。翔太郎しょうたろうくんは自分の事だと思い、押し黙っていた。


「で、僕思ったのよ。大卒や高卒の枠を取り払えれば高卒は大卒を抜かしたい、大卒は高卒より学歴があるってプライドがあるから追い抜かされたくないってなるんじゃないかな?ってね」


勝則かつのりさんは、とても楽しそうな表情をしていた。


「大卒と高卒の初任給の違いはどうにもならない。だって4年間勉強してたのに同じ給与にするのは不公平なんだ。だけど今後は学歴関係なく仕事を評価出来る体制を作ることに取り組んだ。」


勝則かつのりさんは楽しそうに語った。


「僕さ、人事に企画書を提出したんだ。今の評価制度の見直しで学歴関係なく能力で判断出来るようにね。そしたら既存の人事制度に取り入れつつ徐々に制度を変えることが決定したんだ。」


 翔太郎くんは自分のために色々と動いてくれてたと知り目頭が熱くなった。勝則さんは翔太郎を少し見つめてから言葉を発した。


「翔太郎くん…うちの工場に戻って来てくれないか?君が目指したエンジニアという職業ではないけど、うちの工場…僕には君が必要なんだ…」


勝則さんは絞るように声を出した。


「本当は君が辞める前に人事が返答してくれたら良かったんだけど、もしこの話をして新たな評価制度が通らなかったら君をぬか喜びさせると思って言えなかったんだ。」


翔太郎くんは下を向きつつ答えた。


「…はい」


 それはとても小さい音のようだった。でも、勝則さんには確かに聞こえた。


「泣いてるの?」


「違いますよ。煙草の煙が目に入って痛いんですよ」


「じゃ、再就職決定って事で飲もう。就職おめでとう」


「はい、採用ありがとうございます」


「「かんぱーい」」


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