第50話 俺の気持ち!!

 この告白は俺の本心だ。本心であるはずだ。本心であってくれ。


 そう自分に何度も言い聞かせた。


 本来の男子高校生が告白した際は、相手の返事にドギマギするものなのだろうか。


 今の俺は、瞳ちゃんの返事など気にする事なく、ただ告白を脳内で正当化しようと努力している。


 こんな事を考えている時点で、本心では無いのかもな。


「……」


 瞳ちゃんは急な告白に戸惑っているのか、はたまた嬉しさのあまり声が出せないだけなのか、少し黙りこくる。


 だってそうだろ? あんなに好き好き言ってた男子に告白されたんだぜ?


 嬉しすぎて、夢と現実の整理がまだ出来ていないのかもしれない。


「恋次君……また、同じ事を繰り返すの?」


「えっ……」


 瞳ちゃんは可哀想なものを見るように、大きい目を細くして予想打にしない事を言ってきた。


 普通、告白の返事って『はい』か『いいえ』じゃないの? 少なくとも俺はそうしてきたぞ。『いいえ』しか言った事ないけど。


 瞳ちゃんは俺の気持ちを見透かしているのだろうか。


 どうして彼女は俺が今、一番かけられたくない言葉を選んだんだ。


 それと同時に、俺の本心に気づかせてくれる言葉でもあった。


 俺はもう、瞳ちゃんが好きではない。いや、正確に言えば好きだけど、付き合いたいとは思っていない。


 光子は国光先輩に告白された時、こんな曖昧で、モヤモヤした気持ちだったんだろうな。


 また俺の頭の中には光子が浮かぶ。


「恋次君とは付き合いたいって思ってる。それも10年前から。でもさ、何で、泣いてるの……?」


 頬を水がつたう感触はある。だが泣いているという自覚は無かった。


 俺は知らぬ間に、また泣いてたのか……。今日はよく泣く日だな。


「瞳ちゃんは……俺のこと好きでしょ……?」


 そして俺が1番最低な事、それは、『俺の事が大好きな瞳ちゃんなら、簡単に俺を慰めてくれるだろう』と思っている腐った性格である。


 瞳ちゃんの告白を1度断っているクズ野郎は、そんな傷心乙女の気持ちを踏みにじるかのような言葉を発した。


「恋次君、そんな顔をしないでよ……」


 声を震わせながら、それでいて力強い口調の瞳ちゃんの目は、少々潤んでいる。


 今の俺の顔はそんなに醜い顔なのか……。


 瞳ちゃんの言う『顔』とは外面そとづらではなく、俺の内面ないめん、から滲み出る負の感情の事を指しているのではないだろうか。


 『性格は顔に出る』頻繁に耳にする言葉。この言葉が真実ならば、俺の顔は日本で1番最低なつらをしているのかもしれないな。


  今いる場所が海で良かったと切に思う。もしここがガラス窓、もしくは鏡がある場所だったなら、どんな醜い顔を拝むことになっていた事か。


「瞳ちゃん、告白の返事を聞かせて」


「無理よ。今は答えられない」


「どうして?」


「この答えを今の恋次君に言ってしまったら、私が大好きな恋次君は多分、いなくなっちゃうから」


 俺は自殺なんか……ああ、なるほど。彼女が好きな宇都宮 恋次は、皆んなを助けるヒーローなんだっけか。


 ふっ、今の俺とは正反対だな……。


 自身のクズさ加減に呆れ、自分を見下すかのようについ鼻で笑ってしまう。


「答えが言えないなら、もうどこかに消えてくれないか? 俺は今1人になりたいんだ」


「わかった......」


 そう告げると、瞳ちゃんは下唇を強く噛み締めながら、浜辺を後にした。


 振り向きざま、彼女の目から涙が滴り落ちるのが見えた。


 ああ、俺は本当に最悪なクズ野郎だな。


 女の子を泣かしてまで、自分の罪悪感から逃れようとしてるなんて。

 

 傲慢ごうまんでいて怠惰たいだ。クズの象徴じゃねぇか……。


「グァアァァウァァァッァァ!!」


 夏休みの間に伸びた癖っ毛混じりの黒髪を掻きむしりながら、どこから出ているのかもわからない奇声を発した。


 未知の生物のような声は、波の音にかき消される事なく、雲ひとつない青空に響き渡っていた。


 10分ほど叫んだ後、俺の喉は枯れ果て潰れた。


 不思議と喉に痛みは感じない。心の痛みがそれを数段も上回っているからだろうか。


「はぁ、はぁ、はぁ、ぐにみづぜんぱい……ごめ゛んな゛ざい゛」


 そして俺は枯れた声で、遅すぎる謝罪をした。国光先輩の耐えた6ヶ月は返ってはこない。


 人は時に、無自覚のうちに人を傷つけてしまう事がある。俺はそれを痛いほど学んだ。あまりにも大きい代償と引き換えに。


 俺にはもう国光先輩、光子、瞳ちゃん、ましてや学や五十嵐とも話す資格は持っていない。


 俺は国光先輩と同じ気持ちを、次は瞳ちゃんに味合わせようとした最低な人間だ。


 彼女の『また繰り返すの』、この言葉がなければ俺は落ちる所まで落ちる所だった。


 瞳ちゃんはもしかしたら、俺の1番の理解者なのかもしれない。自分の気持ちを押し殺し、俺の告白を見送ってくれる優しさはまさに女神だ。


 だが俺は彼女とは付き合えない。


 なぜなら……俺は極度な恋愛脳の幼馴染が好きだから。

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