第48話 幼馴染との関係性!!

「国光先輩、とにかく光子ともう一度、話をしてやってください」


「無理だ。もう、僕達は彼氏彼女の関係じゃ無い。ただの元カレと元カノだよ」


 光子のことがまだ好きだと言う国光先輩は、その言葉の意味とは裏腹に、すでに光子の事を忘れようとしている。


「元カレって……、一方的に振られた光子が可哀想じゃないですか!!」


 俺は国光先輩の一方的な振る舞いに、かなり声を荒げた。


「光子が可哀想……か。僕は可哀想じゃないのか?」


「え?」


「付き合って半年間、光子は僕を1番として一回もみてくれた事はない。それは、可哀想だと思わないのかい?」


 俺も感情が高ぶってしまっているせいか、国光先輩の言っている意味が理解できない。


「一番として見てくれないって、国光先輩は光子の彼氏で、光子が一番好きだったのも国光先輩じゃないですか!」


「君は大きな思い違いをしている。僕は確かに光子の彼氏だった。でも、光子の一番好きな人ではなかったよ」


「言ってる意味がわかりません! 光子はいつも国光先輩と一緒にいて……」


「君とだろ!! 光子はいつも恋次君と一緒にいた。僕はその次だったんだよ!!」


 確かに俺と光子は長い間一緒にいる。


 ただそれは家が隣同士で、更に言えば幼馴染として16年間も一緒にいたからであって、そこに光子と国光先輩のような関係性は一切ない。


「光子は今、国光先輩に振られて泣いてるんですよ!? そばにいてあげて下さいよ!」


「光子が本当にそばにいて欲しいのは僕じゃない。そろそろ気づくべきだ」


「さっきから何を言ってるんですか!? 気づくべきって、俺はただ国光先輩に」


「光子が本当に好きなのは恋次君!! 君なんだよ!! そして恋次君、おそらく君がいちばん好きな人も……いや、僕が伝えるのはナンセンスだね。僕はもう行くよ、じゃあね。沖縄旅行楽しかった」


 最後にそう言い残し、国光先輩はどこかへ行ってしまった。


 俺はもう、国光先輩を引き止める事は出来ない。


 高校3年生の男子が、大泣きしながら去って行ったのだ。これ以上俺に出来る事は何もない。


 俺はただ呆然と、空港のフライトスケジュールの電光掲示板をぼんやりと見上げながら立ち尽くした。


「俺に、どうしろって言うんだよ……」


 なぜか俺まで泣きたい気分になる。


 綺麗な花火を見た直後にこんな展開になるなんて、恋愛教はどこまで意地悪なんだ。


 そして、2時間も走り続けた俺の体力は限界に近づき、気づかないうちに空港のベンチで寝てしまった。


「……次!! ……起きろ恋次!!」


 肩を揺すられ俺はバッと目を覚ます。


 俺を起こしたのは学だった。


「学! 国光先輩は!?」


「僕は見てないけど、見つからなかったのか?」


「……いや、なんでもない」


 学は何かを察したのか、それ以降、国光先輩については聞いてはこなかった。

 

 今、俺の脳裏には国光先輩が最後に言った言葉がこびりついて離れない。


 光子が本当に好きなのは俺、ってそりゃあ異性の友達としてだろ。俺だって光子の事は好きだけど…… 。


 モヤモヤが残る中、俺は学と共に別荘へ戻った。

 

 女子達がリビングルームで談笑しているが、光子の姿は見当たらない。


「あっ、おかえり恋次君……」


 俺が顔を見せると、瞳ちゃんは少し暗い顔になる。


「ただいま……。光子は?」


「部屋にいるよ」


 光子の部屋へ行くため、階段を登ろうとすると瞳ちゃんが俺の腕を掴んだ。


「待って! 今は……1人してあげて……」


 ここまで心配そうな顔を見せる瞳ちゃんを見て、光子の様子はなんとなく想像出来る。


 ならば、なおさら1人させては行けないんじゃないだろうか。


「で、でも光子が心配だよ瞳ちゃん」


「今恋次君が光子ちゃんと話すのは逆効果だと思うわ……」


 俺が光子と話すのは逆効果? 俺はいつも光子の相談に乗ってきた、今回だって光子は……。


 その時、またも国光先輩が言っていた『光子が本当にそばにいて欲しいのは僕じゃない』の言葉を思い出す。


「……なぁ瞳ちゃん、正直に答えてくれ。光子が国光先輩に振られた理由ってわかる?」


「……なんとなく」


「教えてくれ」


「……」


 理由を話すのに瞳ちゃんはためらう。


「お願いだ、教えてくれ」


 もう覚悟はできている。と言うか、さすがの俺でもなんとなく想像できる。


 昨日国光先輩が散々伝えてきた、俺と光子の本当の関係性について、そして瞳ちゃんが言った俺が光子に会うのは逆効果。


「瞳ちゃん、頼む! 俺もなんとなく理解できたつもりだ、でも、第三者から見てどうなのか、教えてくれないかな」


「……たぶん、恋次君が原因じゃないかな……」


 やはりそうだ、俺と光子の関係は当事者より、第三者から見た方がより密接に見えていたらしい。


 その事実を確認した俺は、何も言わずに別荘から出て行った。


 光子が思っているように、俺も1人になりたいと思ったからだ。


 

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