第45話 リア充爆誕!!

「あれ? そう言えばお兄ちゃん、瞳さんと一緒じゃなかった?」


「……そ、そんな事ないよ?」


 ヤッベェー!! 忘れてた事って瞳ちゃんだ。今頃メンヘラモードに……。


「あら恋次君、恋歌ちゃんを見つけて連絡もくれないのね?」


 声のトーンが低い。声質も怒っている。後ろを振り向かなくても俺には分かる。


 確実にメンヘラモードじゃん!!


「あ、あああ、ああ。悪い悪い、今連絡しようと……」


 キャー! 完全にメンヘラ、いやもうメンヘラ超えて死神モードになってるぅー!!


 死ぬの? 俺今日ここで死ぬの?


「そうなんだぁ。連絡しようとしてる人が、両手にりんご飴とイカ焼きねぇ?」


 ごめんなさいごめんなさい。僕の持ち物全て、瞳様に差し上げますから!!


「こ、これはー、そのぉー、なんと言えばいいか……」


「それ恋歌のー!! ごめんなさい瞳さん。私がお兄ちゃんにあれこれ頼んじゃって」


「い、いいのよ別に! 恋歌ちゃんが見つかって本当に良かったわ!」


 な、ナイス妹よ!! やっぱり俺の事を一番理解してくれるのはお前だ!


「とりあえず、光子さん達も探しに行きましょー? 花火終わっちゃいますよ?」


「そうね」


 助かった? 俺助かったの?


「よ、よし! じゃあ皆んなで逸れないように、固まって歩こうな。


 ギラッと瞳ちゃんの殺気が俺に向けられた。


 僕は短命だそうですお母さん。


 河川敷に打ち上がる花火は十人十色。あらゆる形、色、音を出し俺らを感動させる。


「綺麗だねぇー」


「ほらっ! 恋歌、行くぞ!」


「あ、待ってよー!」


 意外な事に、瞳ちゃんは花火に一切興味を示していない。


「ね、ねぇ瞳ちゃん? もしかして花火嫌いなの?」


「別に嫌いじゃないけど、興味ないだけよ。観光地とか、夜空とか、正直そんな物見てどうするの、って思うわ」


 あははは、まじでこの人、どこまでが天使瞳ちゃんでどこまでがメンヘラモードなのか分からなくなってきた。


 常に天使として、相田瞳として振舞ってきた彼女の本当の顔、それは正直僕にも分からない。それほど瞳ちゃんは人格を作るのが上手で、またコントールするのも上手なのだ。


「おいおい、まじで花火終わっちゃうぞ」

 

 花火大会も終局を迎え、激しい花火ラッシュが繰り広げられる。


「すごいねおにーちゃん」


「そうだなぁ」


 俺たちは学達を探す事を一旦諦め、夏の風物詩の醍醐味、夜空に咲く眩い花を見上げていた。


 チラッと瞳ちゃんの方を見る。


 無表情でただ遠くを見つめる瞳ちゃんの目には花火は写ってなさそうだ。


「ほら、瞳ちゃん! 上見なきゃ!」


 俺は瞳ちゃんの柔らかい頬をプニ、っと掴み、上を向かせた。


「にゃ、にゃにするにょ、恋次君」


「案外花火も悪くないでしょ?」


 俺の手を振りほどいて瞳ちゃんは答える。


「恋次君が彼氏だったら、私の目にも花火が綺麗に写るでしょうね」


「はは、そっか。そりゃあ残念」


 俺は微笑みながら瞳ちゃんに伝えた。


 花火大会は最後、一番大きなイチョウ型の花火が上がり、終了した。


 これから訪れる秋にバトンを渡すかのような幕切れに、俺はやはり感動する。


「いやー、すごかったな!」


「そうだねおにーちゃん! 来年も来よう!」


「そうだな!」


 俺は守れるはずもない約束も即座に返答してしまうほど、感情が高ぶっていた。


「じゃあ恋次君、私と付き合いましょ?」


「無理だな!」

 

 さすがに引っかからんぞ!?


「チッ!」


 えー!? 今の舌打ち? 俺なんか悪い事した!?


「じゃあ皆んなと合流しよう。民泊のチェックインは11時だし、少し急がないと」


 先程まで人混みのせいで上手く歩けなかったのが嘘のように、人気が減って行く。


 辺りを見渡すと最初に学を発見した。


「おーい!! 学!!」


「……」


 学に返事はない。俺は近づいてもう一度、名前を呼んだ。


「おーい!! 学!!」


「……」


 学は俺の声に気づいてコチラを向いたが、返事はしない。


 なんだあいつ、なんで返事しねぇんだよ!


 俺は小走りで学に近づく。


「おい! 学! なんで返事……」


 暗くて学の顔をハッキリと見る事は出来ない。


 だが、学は確実に泣いている。


「どうしたんだよ学!?」


 それに周りを見渡しても五十嵐の姿はない。


 まさか……。


 俺の想像が正しければ、ラスト1週間弱の沖縄旅行は気まづい雰囲気に包まれるはずだ。


「れ、恋次ぃー!! ぼ、僕、思い切って純恋に告白したんだ……」


 やっぱりぃーー!!

 

 何、夏祭りマジックの誘惑に負けてんだお前ぇー!!!


 と、とりあえず学を慰めよう。


「き、気にすんなよ学。これから新しい恋見つければいいじゃねぇか。親友としてそれくらい、いつでも手伝うぜ?」


 はい俺かっこいい! 絶対手伝わないけどかっこいい!!


「……? 何言ってるの恋次? 告白成功したんだけど……」


「そうかそうか。……ん? 今なんて?」


「え、だから告白は成功したけど」


「じゃあ何でお前泣いてんの?」


「嬉しくて」


 紛らわしいんじゃボケェー!! しかもはっ!? 告白成功って事は、学リア充? まじで?


 俺は背一杯の笑顔で学を祝福する言葉をかける。


「なぁ、学……お前の事、川に投げ込んでもいいかな?」


「何でぇ!?」


「何でお前だけリア充の仲間入りしてんだよ! 記憶失くせ! 今すぐ記憶失くせ!」


「こら! 宇都宮殿! 妾の伴侶に何をしておる!」


 ウゼェー。こいつのキャラがさらにウザく感じるー!!


「よ、よう五十嵐。俺は女だって手加減はしねぇ。学を返せ」


「いい度胸じゃ、返り討ちにしてしんぜよう」


「お、おい恋次、純恋、やめろって……」


 一瞬の出来事、何が起きたか俺にも分からない。


 俺は五十嵐に頭を殴られた。


「避雷針2の型! じゃよ?」


 お前それ4代目ぇー!! 人の技をパクるなー!! てか何で出来るんだよ……。


 こうして俺達が遊んでいると、光子がトボトボ歩いてきた。


「おお! 光子! どうだった花火」


「恋ちゃん……」


「ん?」


 急に光子は俺に抱きついてきた。


 い、一体どうなってんの!? これも恋愛教の仕業ですか!?

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