第44話 もうシスコンでいいや!!

「どこにも見当たらないね」


 人でごった返しの中、学達を見つけるのは至難を極めた。


 俺は学に何度か電話をかけたが留守電になっており繋がらない。


「あ、あいつらまさか! 2人きりで花火見ようとしてるんじゃないだろうな!?」


「別にいいじゃん。あの2人そろそろ付き合いそうだし」


「よくねぇよ! あいつらが2人きりだと恋歌が1人になっちまうだろうが!!」


 俺は珍しく瞳ちゃんに声を荒げてしまった。


 と言うのも、恋歌がまだ小学生だった頃、俺は中学校の友達と一緒に地元の祭りに出かけた事があった。


 父さんが恋歌も連れて行け、と言うから仕方なく連れて行ったのだが、俺は友達と遊ぶのに夢中になってしまい恋歌と逸れてしまった。今思えば俺は最低な兄貴だな。


 途中で恋歌がいない事に気付いて、友達と恋歌の事を探し回ったが、今と同じように人混みが多くて中々恋歌を見つける事が出来なかった。


 祭りが終わっても恋歌は見つからず、警察に連絡しようとした時、ど真ん中に建ってたやぐらの中から、恋歌の声が聞こえてきて、下を覗くと恋歌は泣き顔で顔をぐしゃぐしゃにしながら『おにーちゃーん、怖いよぉー』と叫んでいた。


 その時に俺は誓ったのだ、もう恋歌を1人にはしないと。


 だから本当は今回の沖縄に恋歌を連れて来るのも少しやるせない気持ちがあった。


「怒鳴っちゃってごめん瞳ちゃん。早くみんなを見つけよう」


「やっぱり変わってないね、恋次君……」


「ん?」


「恋次君はいつもどこかで人を助けてる。普通、人を助ける場面なんてそうそう無いのに。恋次君のせいで事件が起こるのか、それとも恋次君は普通の人より周りが見えているのか、どちらかは分からないけど、私は恋次君の人を助ける為に一生懸命になれる所……大好きだよ」


 瞳ちゃんは俺に引っ張られながらこんな事を言った。


 顔が熱いのは夏のせいなのか、それとも瞳ちゃんのせいなのか。


 まったく、恋愛教は俺に何度試練を与えれば気が済むのだろうか。


「ありがとう瞳ちゃん。俺も瞳ちゃんの素直ところ、結構好きだぜ? 怖いけど……」


「……」


 暗くてよく見えなかったが、瞳ちゃんも俺と同じように、顔を火照らせていたはずだ。


 今の俺……ちょっとカッコよくね!?


 それでも神様は残酷だ、俺達を待つ事はしない。


 学や恋歌を見つける前に、『ドーン』と綺麗な光と共に夜空は照らされ始めた。


「……始まっちったか……」


「すぐ探そ!!」


 今日の瞳ちゃんは本当に良い子だ。花火が始まれば一緒に見ようと抱きついて来ると思ったが、花火などには目もくれず、学達を探している。


 元はと言えば、俺が1人で抜け出そうとしたのが間違えだった。初めから全員で回っておけば……。


 俺は膝に手をつきながら肩で息をしている。もっと運動しておくべきだった。


「くそー!! どこにいんだよ恋歌ぁー!!」


「何それおにーちゃん。実の妹に愛の告白? 無いわぁー」


 目の前にはイカ焼きを左手に持った恋歌の姿。


「れ、恋歌……よかった。今回は泣いてない……」


 俺は無意識に恋歌に近づき、ギュッと抱きしめた。


「ちょ、ちょっ! お兄ちゃん!? まじで愛の告白!? やめてよ!?」


「ごめんなぁー、1人にさせちまって……」


 今回は俺が泣いてしまっている。


「もしかしておにーちゃん、小学生の私を置いて行った祭りの話してる?」


「……うん」


「私もう中学生だから。1人で大丈夫だし、暑いから抱きつかないで!!」


 恋歌は俺をドンと突き飛ばしたが、花火で照らされた恋歌の顔は今までで、一番最高の笑顔だった。


 これは夏祭りマジック越えの可愛さだな。


「おにーちゃん罰としてりんご飴奢って」


「罰ってなんの罰だよ」


「私を1人にした罰」


「やっぱ寂しかったんじゃん」


「あー、あー。お兄ちゃんが抱きついてきた、ってお父さんにメールしよーっと」


「りんご飴買ってきました恋歌お嬢様!」


 カップルや友達と過ごす祭りもいいけど、妹と回る祭りも案外悪くないぜ、中学生の俺。


「次はチョコバナナ!!」


「どんだけ食うんだよ」


 あれ、何か忘れてる様な……。


「恋次くーん!! どこー? 私1人になっちゃった。ウェーン!!」


 忘れてるもの思い出したら生きた心地しなそうだし忘れたままでいいや。恋歌と楽しも。


 この時の俺は知る由もなかった。綺麗な花火が上がっている河川敷の下で、大きな涙を流す者が3人もいた事を。


 そして、俺がこの事を知った時、恋愛教の本当の恐ろしさを俺は痛感する事となる。

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