第43話 夏祭りマジック!!
まずいぞ。完全に俺の計画は狂いつつある。まさか瞳ちゃんが人前で、俺のことをここまでがっちり捕まえてくるなんて……。
「あ、あの瞳ちゃん? 俺とこんなにくっ付いてたら、綿菓子食べにくいんじゃ?」
「全然大丈夫!」
俺は全然大丈夫じゃないんですけど? 歩きづらくてしょうがないんですけど!?
「そ、それにこんなところ、光子達に見られたら勘違いされるんじゃ……」
「またあのクソビッチ? いいじゃない、別に勘違いされても。むしろクソビッチにもうこれ以上、恋愛の事言われなくて済むんだから」
ん? 待てよ? 確かにそれは考えてもみなかった。
俺が瞳ちゃんと付き合ってる、って知ったら光子は俺にもう恋愛展開授業はしてこないんじゃないか?
いや、待て待て。それで付き合ってる事になればそれこそ俺の命が瞳ちゃんに刈り取られる事になるんじゃ……。
俺は葛藤していた。このまま俺の事を間違った方向性であれ、愛してくれている瞳ちゃんと付き合って、恋愛教の魔の手から逃れるか。ただそれだと、俺は恐らく、いや確実に、一生瞳ちゃんと一緒にいなければならない。
それか瞳ちゃんの魔の手から逃れて幼馴染のリア充恋愛教祖のご加護を受け続けるか。
どっちも嫌だぁー!! 俺にも自由な恋愛させてー!! 学ぅー、カムバーック!!!
「ね! とりあえずお試し、って前にも言ったでしょ? 悪い話じゃないと思うんだけど」
それが本当にお試しで終わるならな。どうせお試しって銘打って、年間費取るやつだろそれ。
「ま、まぁさすがに今直ぐに、って訳にはいかないかなぁー? なんて……」
「……そっか。残念」
あれ? 今絶対メンヘラ瞳ちゃん登場すると思ったんだけど。
「じゃあ次は恋次君が行きたいとこ行こ!」
んん? どうしたんだこれ!? もしかしてこれから今日1日はずっと天使ちゃんモードなの!? これが夏祭りマジックってやつ!?
「じゃ、じゃあ、かき氷でも食べに行こうか」
「やったー!! 私もかき氷食べたいと思ってた」
未だに俺の腕を離す気配は無いが、なんか楽しいぞこれ!?
そもそも俺は天使瞳ちゃんしか知らなかった時は、瞳ちゃんに恋してたんだ。
今日1日、メンヘラモードにならないなら、これは死のランデブーから天使とのデートに変わったんじゃないか?
やばい、まじで楽しくなってきた、しかも浴衣の瞳ちゃんまじ天使。惚れちゃう!
それから俺は、1人になる作戦は忘れて、天使モードの瞳ちゃんとのデート気分を楽しんだ。
「あれ? そう思えば他の皆んなは?」
「屋台に夢中になって逸れちゃったね」
おいおいおい。これまじでデートなんじゃない? メンヘラじゃない状態の瞳ちゃんとデートなら、むしろウェルカムなんですけど?
「とりあえず皆んなと合流しようか」
「だめ。なんで私が恋次君1人引っ張って連れてきたかわかってる?」
君が極度のメンヘラだから……など言えるはずもなく。
「はは、わ、分からないなぁー?」
瞳ちゃんのメンヘラモードを覚醒させないために、俺はとぼけて見せた。
「光子ちゃんと国光先輩はれっきとしたカップルじゃない。2人の邪魔をしちゃ悪いわ」
「ま、まぁ確かに。でも学と五十嵐は付き合ってないし、それに恋歌も……」
「はぁ、恋次君は本当にわかってない! 学君と純恋ちゃんは両思い、でもまだ付き合ってはいない。そのもどかしさを緩和するのが恋歌ちゃんの存在なの!」
メンヘラの女の子でもそう言う事はちゃんと理解してるんだな……。
ならもうちょっと俺にも気を使ってくれませんか!?
「じゃあ俺たちはどうすれば」
「2人で歩いてればいいじゃん。花火を見る時だけ合流すればいいのよ」
「なるほど。わかったよ」
なんだか瞳ちゃんに言いくるめられた気がしなくもないが、まぁ天使モードの瞳ちゃんと2人きりなら、むしろご褒美だな。
そんな下世話な事を思いながら、俺と瞳ちゃんは花火が始まるまで時間を潰した。
「ちょっとお腹減ったから焼きそば食べない?」
「いいよ!」
どの焼きそば屋が美味しいそうかなー? って……ん?
あ、あれは……!!
「お! よう少年! 頭の怪我はもう大丈夫なのか?」
なんと、海の家バイトの店長が夏祭りで焼きそばを売っていた。
「はい! おかげさまで! バイトの後挨拶しに行けなくてすいませんでした」
「いや、いいんだよ。少年が途中離脱したぶんのバイト代はちゃんと引いておいたし」
……この人、血も涙もないな。
「じゃあ焼きそば1つください」
「彼女連れて夏祭りとは……」
店長の目からは一欠片の涙が、ほろりと落ちる。
もしかして店長、焼きそば道はモテる、とか言っておいて彼女いないんじゃ……。
その事はあえて触れずに、焼きそばだけ買って直ぐにトンズラした。
「美味しそうだね! この焼きそば」
「はは……」
俺が海で作ってた忌まわしき焼きそばだけどな。
2人で1パックの焼きそばを平らげる。
確かに周りから見れば俺たちはカップルに見えているのかもしれないと、ふと思う。
「あ、そろそろ花火上がる時間だし、皆んなと合流しよ」
「あ、うん。そうだね……」
まさか瞳ちゃんから皆んなと合流しようと提案してくるとは。
どこか寂しい自分がいた。
このままでは、天使モード瞳ちゃんの存在がメンヘラモードを凌駕して、また彼女を好きになってしまいそうだ。
これが夏祭りマジックか……。
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