第42話 俺の思い、天空まで届けぇ!!

「よっしゃー、じゃあ出発するか!」


 浴衣に袖を通し見た目がすっきりしている6人に対し、俺は無地の白Tシャツに半ズボン、スニーカーというなんともアンバラスな7人組が、本島で行われている花火大会に向け出発する。


 携帯の時刻表記は15:26分。18時には花火大会が行われる河川敷に着くだろう。


「いやぁー、楽しみだねー」


「私、絶対たこ焼きは食べたい!」


「屋台の焼きそばも絶品じゃよ」


 女子達は髪飾りで髪をあげ綺麗なうなじを露わにしている。


 光子が言ってた浴衣を着ると3倍可愛くなる効果なのだろうか、下駄をカタカタと鳴らしながら歩く4人の美少女達の周りに、わたあめの様なフワフワした幻想が浮かんでいる気がする。


 おっと、いかんいかん。あいつらは美少女の皮を被った変人の集まりだ。恋歌以外。気を確かにしろ宇都宮恋次!!


 俺はパンパンと自分の顔を軽く叩き、目を覚醒させた。


「恋次君。着いたら最初、何したい?」


 瞳ちゃんが俺に体を寄せ、上目遣いで聞いてくる。綺麗な瞳はキラキラと輝いている。


 うわっ。顔近っ! 可愛い……。


「い、いやぁー、なんだろうなぁー」


「私、わたあめ食べたい!」


 出た、わたあめ。女子が祭りで男子に、自分可愛いですよアピールするときのマストアイテム。瞳ちゃん、悪いけど俺は光子に6年間も、恋愛脳の授業を受けさせれてんだ。その言葉には引っかからないぜ?


「綿菓子って結局甘すぎて食べきれないし、溶けて手がベトベトになるから俺は大丈夫かな」


 ふっ、残念だったな。


 ギラッと目つきが変わり瞳ちゃんは声のトーンを少し下げてもう一度俺に同じ事を聞く。


「わ・た・しぃー、わたあめが!! 食べたいの!! 恋次君も食べたいよね!?」


「は、はい! そりゃあもう真っ先に食べたいっす!」


「本当!? よかったぁー」


 うぅぅうううぅう……俺に選択権はないのか?


 あ、諦めるな俺! 勝負は暗くなってからだ! 


 わたあめを買いに行く瞳ちゃん。その隙に俺は逃げる。花火大会が終わった後、トイレ行ったら見失った! 


 完璧じゃないか! よし! これならあの、クソラブコメ神も太刀打ちできまい。


 フェリーが本島の港に着き、船から降りる。


「うわっ!」


 履きなれない下駄を履いていたからか、光子が下船する際、つまずいて転びそうになった。


「よっ、っと! 大丈夫か?」


 先に降りてた俺は瞬時に手を貸し、光子は転ぶ事なく船を降りられた。


「気をつけろよ? 下駄は慣れてないと転びやすいから」


「あ、ありがと……」


 なんでこいつ俺の事こんなに見てんの?


 え? 俺の顔になんか付いてる? 昼食べたご飯粒とか!?


 携帯のカメラで確認するが特に変わった所はなかった。


 あるとすれば、何故か国光先輩の視線をビンビンに感じることくらいだ。


「キャァァアア!!」


 女の子の叫び声が、後ろから突然こだました。


 後ろを振り向くと、瞳ちゃんが地面に転がっている。


 アチャー、転んじゃいましたか瞳様。


「大丈夫?」


「だ、大丈夫よ恋次君」


 瞳ちゃんは俺を睨む。


 光子を助けて瞳ちゃんは助けなかったからだろうか。


 だが俺は知っている、瞳ちゃんがワザとつまづいた事を。何故なら昨日の夜、トイレから帰る途中に聞いてしまったのだ。


 呪文の様に『船でつまずく。恋次君は助ける』と唱えている瞳ちゃんを。


 だから俺はあえて助けなかった。だがこれは間違いだったのかもしれない。だって……、


 国光先輩と瞳ちゃん2人からガッチリマークされてんだもん!!


「瞳ちゃん、花火大会の河川敷まで案内よろしく!」


「オッケー」


 すぐさま天使に戻る瞳ちゃん。


 本当スゲェーな。ここまで来たら尊敬するわ。

 

 河川敷に近づくにつれ、段々と人混みが濃くなってくる。これはまさに『人がゴミの様だ』ですね大佐! 天空の城へ連れて行って差し上げて下さい!


 俺は人混みが大嫌いだ。肩ぶつかっただけでキレられるし、暑苦しいし、うるさいから。


「あ、この辺からもう屋台があるよ!」


「おにーちゃん私たこ焼き食べたーい!」


 屋台を見つけ無邪気に走る恋歌に俺の心は癒される。


「たこ焼き1舟ください!」


「はいよ!」


 熱々のたこ焼きを恋歌に渡す。


「ありがとうお兄ちゃん! みんなで一個ずつ食べよ」


 とは言ってもたこ焼きは6個しかないし……まぁいいか。俺は食べなくて。


「あ、じゃあ俺はいら……」


 既に舟の中には1個もたこ焼きはない。


 ……いいですよーっだ。別にぃ? どうせ食べたいと思ってなかったし? 俺なんて1人だけTシャツ着て浮いてる隠キャだし? 


「恋次君、半分あげる! タコも食べていいよ!」


 瞳ちゃんはそう言うと、おもむろに爪楊枝に刺さったたこ焼きを、俺の口に近づけてくる。


 え、何これ。めっちゃ可愛いんだけど。また恋しちゃいそう。もう爪楊枝で刺されてもいいや。食べよ。


「ありがとう瞳ちゃん!」


「うん!」


 天使の瞳ちゃんが笑顔でいる。このまま天使で居続けてくれと、切に願った俺であった。


 日は完全に落ちきり、提灯の光が灯っていない場所は随分と暗い。


 よし! そろそろ作戦決行だ!


「あ、瞳ちゃん。あそこに綿菓子売ってるよ!」


「本当だ!」


 よっしゃー。これで離れ離れに……。


 ぐいっと俺は手を引っ張られ、一緒に綿菓子屋までつれて行かれた。


「わたあめ1つ下さい!」


「おう、若いカップルってのはいいねぇ! 50円におまけしてやる」


「ありがとうおじさん!」


 何がカップルだ。こっちは死神と契約結んでんだぞ。


 綿菓子を受け取った瞳ちゃんは照れながら俺に言う。


「わ、私たち、周りの人達から見たらカップルに見える……のかな?」


 ……バルス!!

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