第41話 浴衣選びは慎重に!!
「まさか恋ちゃんが花火大会に行きたい、なんて言うとはねぇー」
「なんか文句でもあんのかよ?」
「別にぃー。ただ、恋ちゃん私が何度、夏祭りとか花火大会誘っても『いやだ』の一点張りだったじゃん」
そりゃあ誰だって行きたくなくなんだろ。
お前が『花火大会は絶対に恋愛に発展する場所なの! 浴衣に身を包んだ女の子は通常の3倍可愛く見えるんだから』なんてはしゃぎながら家のドアをノックされたら。
「俺だって気持ちが変わる事はあんの! さっさと着る浴衣決めてこい!」
俺達は花火大会前日に浴衣レンタルの試着をしに、島に1件だけある着物屋に訪れていた。
女子はなんで服を選ぶ時にこうも時間をかけるのだろうか。
「恋次は試着しないの?」
学は自分の浴衣を決め、もう既に浴衣に袖を通している。
「ん、ああ。俺は浴衣着ないよ」
「えぇー!! なんで!?」
「スースーするし、好きじゃないんだよ」
それにこんな動きにくい格好じゃ、後ろをついて回る死神様を振り切れねぇ。
祭りで瞳ちゃんに捕まれば、俺の命は無いも同然だ。
「風通しが良いのが、浴衣の良いところではないか。どうじゃ学、似合っとるか?」
「純恋、めっちゃ似合ってるよ!!」
五十嵐の浴衣姿は様になってんなぁー。黒をベースに紫の
って、こいつら今、下の名前で呼び合ってなかった!? しかも呼び捨てで……。
「お、おーい学君、ちょっとコッチに来たまえ」
俺は学の首をヘッドロックの様に掴んで小声で話す。
「お前らいつ、そこまで距離縮めたんだよ!」
「え? あ、えーっと……、恋次が瞳ちゃんと精密検査受けに行った時かな? 2人で話し合って、呼び捨てで呼び合おうって」
俺がネットカフェで死神とドキドキ密着ライフ送ってた時かぁー!!
こ、こいつ油断も隙もありゃしねぇ。お前だけ幸せになろうなんて許さんぞ学!
「あ、あっれー? 五十嵐どうしたんだよ、その浴衣、超似合ってんじゃーん!! 俺もお揃いの着ちゃっおかなー」
「……キモいの」
キモっ……!? さすがに酷くないソレ!? 確かにあからさまだったけど。でもキモいって!
そんなふざけた事を言った俺に、またもや殺気を放つ女性。
もう慣れました。はいはい、ごめんなさい。
瞳ちゃんと共存できる日も近いのかもしれない。
「恋次君、私の浴衣どう?」
「ああ、似合ってるー」
「どう?」
「似合ってるー」
「……、どう!?」
瞳ちゃんはメンヘラモードの顔つきになっている。
これなんで毎回周りは気づかないの!? 怖くて言い出せないだけ? ねぇ、お願いだから皆んな気づいてぇー!!
「め、めっちゃ似合ってますねー!! 赤色の浴衣がここまで似合う女の子初めて見たー!! もう赤色って言ったら情熱の赤いバラか、天使の瞳ちゃんですねー!!」
うぅううぅ……。返り血浴びた女の子にしか見えないよぅ。
「ありがとう恋次君! そこまで褒めてくれるなんて思わなかった!」
無理やり褒めさせたんだろうが……。
「おにーちゃん! 見て見て! どう? 私の浴衣!」
黄色の
明るい色が好きな恋歌が好きそうな浴衣だな。
「似合ってるぞぉー恋歌」
俺は恋歌の頭を子犬の様に撫でた。
「キモ、実の妹にデレデレすんなよ」
……、いやお前からデレて来たんだろぉー!? なに、俺っておにーちゃんとして見てキモいの? やばい、メンヘラになりそう……。
「残りは光子だけだけど、あいつはまだ決まんねぇのか?」
それから10分後くらいして光子が店の裏から出て来た。
「浴衣の着付け分からなくて時間かかっちゃった。どうかな?」
「よく似合ってる。光子ぽいよっ」
真っ先に声をかけたのは国光先輩だった。
似合ってると言われて光子も満更でもない顔をしている。
まぁ確かに似合っている。白の浴衣にラベンダー柄。どこにでもありそうな普通の浴衣だが、顔だけはいい光子は、何を着ても似合うようだ。
「どう恋ちゃん? 似合ってる?」
「ん、ああ、まぁ悪くないんじゃね」
俺は正直に似合っている、とは照れ臭くて言えなかった。
「そっか……、覚えてないよね」
ボソッと光子は何かを言ったが、俺にはよく聞き取れなかった。
そして光子はどことなく悲しそうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔を取り戻し、女子達の方へ意見を聞きに行った。
「光子……」
そんな姿の光子を見て俺は、なぜだか懐かしさを感じていた。
「本当に浴衣着なくていいのか? お前だけだぞ恋次」
「いいって。とにかく浴衣決めたならさっさと帰ろうぜ。明日に向けて早く寝たいんだ俺は」
全員浴衣を決め、明日への準備は万端。
よし、よし、よし! 俺の作戦通りだ! 浴衣=下駄、もしくはサンダル。俺は靴。瞳ちゃんがどんなに俊敏だとしても俺は逃げ切れる! 明日俺は、解放されれるぞぉー!!
こうして夜は明け次の日。
俺の自由時間確保大作戦は狼煙を上げたのであった。
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