暑い花火大会編

第40話 ネットカフェにはご注意を!!

 火曜日の昼間、俺は脳の精密検査を受けに本島の病院に足を運んでいた。


「うん、もうどこにも異常は見当たらないですね。記憶も戻ったようで何よりです」


「やった! ありがとうございます」


「それにしても随分早く、記憶が戻りましたね。一体何がきっかけで?」


「しにが……、友人の多大なる協力の元……、ですかね。ははは……」


 俺はチラチラと後ろを気にする。


「それは素敵なお友達だ。後ろの彼女さんにも感謝してあげてくださいね」


 俺の後ろには最恐の背後霊が付いている。

 

 ここ3日、俺が1人になれる時間は風呂に入る時くらいだ。


「あ、はい……、ただ、彼女では……」


「え!? 彼女じゃないの!?」


「恋次君は恥ずかしがり屋なので」


「青春してますね。あれ? 少々顔色が悪いようでうが、大丈夫ですか?」


「はは、助け……」


 背後からとてつもない殺気……、いや狂気じみた愛を感じる。


「大丈夫です!!」


「そうですか。まぁこれからは気をつけて生活してください」


「あ、ありがとうございました」


 たかが精密検査を受けに行くだけだったが、瞳ちゃんは心配だから、と俺に付き添った。


 本当に心配なら事あるごとに殺気を出すのをやめてくれ。君は世界一安全な国、日本で生まれ育ったんですよ。


「恋次君。何かしたい事ある?」


「うーん、最近色々あったしネットカフェでも行きたいかな」


 ネットカフェは完全個室、今の俺が瞳ちゃんと離れるには最適な場所!


 さすが俺、頭の回転早い! 頭いい! カッコいい!!


「プランの方はどうなさいますか?」


「えーっと、完全個室……」


「ペアフラットでお願いします!」


 ペアフラットとは、密閉された狭い空間の中に2人で入れる部屋。


 さ、最悪だ……、なんで俺ネットカフェなんて来てんの!? ばか! ブサイク!


「ひ、瞳ちゃんはな、何か見たいものでもある?」


「うーん。前に見た映画なんだけど『真実の愛を求め』が見たいかな」


 ふざけんなぁー! メンヘラ女とこんな密室で、そんな映画観れるかぁー!!


「あ、とりあえず飲み物とってくるよ、俺」


「うん。わかった」


 ネットカフェに行きたいなどと行った自分を悔やみながら、トボトボと歩いてドリンクバーに向かう。


 何か周りにいるお客さんから目線を感じるんだけど。俺ってそんなにイケメンかな?


「おい。あれ絶対モデルだぜ?」


「かわいいー! お人形さんみたい」


 俺はドリンクバーコーナーでコーラを注ぐ。


「恋次君、コーラなんて飲んでたら太っちゃうよ!」


 なんでつい来てるんですか死神さん。せっかくドリンクバーコーナーで2時間時間潰そうと思ったのに……。


「さっ、早く映画観よ!」


 俺は瞳ちゃんに強い力で腕を引かれ、部屋に引きずり込まれた。


 いやだ、嫌だぁぁぁぁーーー!!!


「あれ彼氏かな?」


「なかなかイケメンだったしそうじゃない?」


 彼氏じゃないです! 生け贄です!!


 映画の内容は酷いものだった。


 真実の愛を確かめる為、女の子は男を尾行する。なんやかんやで男の浮気がバレて、女は男を殺した後、自殺してバッドエンド終了。


 これは瞳ちゃんが俺に向けた警告でいいんだろうか。


「ね、ねぇ瞳ちゃん。映画も終わったしそろそろ……」


「すー、すー」


 寝顔が最高にかわいい。俺の肩に寄っ掛かり、スヤスヤと可愛い寝息を立てて瞳ちゃんは寝ていた。


 もう少し、寝かせてやるか。


 俺は瞳ちゃんが起きるまで、彼女の体温を感じながらパソコンで夏の風物詩を検索した。


「甲子園」


 全く持って興味がない。


「海」


 もう一生行きたくない。


「プール」


 海と似てるしなんか嫌だ。


「川」


 だから海と似てるから嫌だ!!


「祭り」


 ……、これだ!!


 俺はここ沖縄に来てから、楽しい事もして来たが、これと言って夏の遊びをしていない。


 祭りだ祭り。やっぱ夏と言えば祭りだな!


「沖縄 祭り」


 検索すると大量に検索結果がヒットする。


 その中でも特に俺の目を引いたのは、『沖縄花火大会祭り2020。浴衣で叫べ、遊べ』だった。


 花火大会に祭りそして浴衣。最高のコンビネーションじゃね? 


 まさに猪鹿蝶のごときコンビネーション。


「あっ! ごめん。寝ちゃってた」


「ああ、大丈夫だよ! それより別荘に戻ろう。みんなに話したい事があるんだ」


「それってもしかして私の……」


「違う違う。皆んなで花火大会に行こうって話!」


 瞳ちゃんは祭りと聞いただけで、口角が上がり、嬉しそうな顔を見せる。


 もしかして瞳ちゃんは『俺と2人切りで祭り』とかとんでもなく怖い勘違いをしているのではなかろうか……。


「皆んな! 3日後にある花火大会に行こうぜ」


 全員もちろん2つ返事で承諾した。


 キタキタキタ。ついに夏らしい事ができるぞ。


 ラムネ飲んで、焼きそば食べて、浴衣美女ナンパして、瞳ちゃんから解放。


 これが俺の作戦である。


「にっしししし。完璧じゃん」


「何が?」


「い、いやなんでもない! 楽しもうな学!」


 この夏祭りでもラブコメの神様は、恋愛教は、俺の前に現れるのだろうか……。


 あっ! やめて! そんな盛大なフラグ立てるのやめて!!

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