第39話 笑顔でハイッ、チーズ。

 しばらくすると買い出しから皆んなが帰ってきた。


「ただいまー。あれ? おにーちゃん!! 起きたんだ!」


「おう恋歌。おはよう!」


「おにーちゃん本当に記憶戻ってるー!!」


「よかったね恋次」


「師匠! また色々と教えてね!」


「妾は、心配で心配で……」


「恋ちゃん……、おかえり!」


 皆んなの温かい声。そして光子の『おかえり』、の言葉が俺の心にジーンと響いた。


 皆んな、大好きだ!


「記憶なくしてる時のおにーちゃんとかめっちゃ暗くてキモかったし」


「恋歌殿、それは今も変わら……、プププ」


 こ、こいつら……、人の苦労も知らずに!


「まぁまぁ、恋次の【記憶復活祝い】って事で、皆んなジュースは持ってる?」


 やっぱり学はいい奴だ。記憶喪失の時も、俺を助けたのは学だったし。ありがとう、親友!


「皆んな持ってるね! じゃあ、記憶喪失だった恋次を思いっきりバカにする会、楽しもう! かんぱーい!!」


「「「「「「「かんぱーい」」」」」」」


 俺もつられてつい、乾杯と言ってしまった。


「おい! なんだそれ! 本当に辛かったんだぞ!?」


「『学君。俺って、孤独なんですよ。今の俺じゃ誰も信用できないんです』」


 記憶喪失中だった頃の俺を真似する学。


 こいつ絶対ぶっ殺す!!


「あはははは」


 皆んな大笑いしている。まぁこいつらの笑顔が、またこんな風に見れるしいいかな。


「でも次やったら殺す!」


「はは、ごめんごめん。そう言えばもうお父さんとお母さんには連絡したの?」


「いや、まだだけど」


「おにーちゃん! 早く連絡しなさい! パパとママ、めちゃくちゃ心配してたんだから」


「あ、ああ、わかったわかった」


 俺はリビングから退席し、ベランダに出て父さんに電話をかけた。


 ……、なかなか出ないな。


「はい」


「あっ、父さん? 久しぶり。心配かけちゃって悪いな」


「あ、ああ気にするな。記憶は戻ったんだろう? 恋歌から聞いたよ」


「そうなんだ。明後日精密検査受けるんだけど、父さん達は沖縄にいつ来るの?」


「その事なんだが、飛行機も運行されなくて、明日から仕事だし行けそうにない。ただお前が無事で本当に良かった」


 来れないのか……。


 俺は少し寂しくも思ったが、父さん達が仕事をしてくれているおかげで、今こうして生活できていると思い、電話越しで『沖縄に来て欲しい』とは言わなかった。


「母さんは元気?」


「そりゃあもう。昨夜なんて『恋次が記憶喪失だから3人目を』って空港の近くのホテ……、あ、いやなんでもない。忘れてくれ! とにかく今忙しいから! じゃあな!」


 プツリと一方的に電話を切られた。電話越しには高校野球の大きな応援歌がこだましていた。


 ……、俺の両親どうなってんのぉー!? 恋歌さっき、父さんと母さん俺の事めちゃめちゃ心配してる、って言ってなかった!? 心配って家族人数の事!? なに3人目作ろうとしてんのぉ!!


 しかもあいつら……、沖縄行きの便キャンセルして大阪で甲子園見てやがる。お、俺の存在って……。


 神様ぁぁぁー!! やっぱり俺の記憶消してぇぇぇぇ!!!


「どうした恋次、そんな顔して。まさかまた具合悪くなったのか?」


「……、具合というか家族具合というか……。俺が信用できるのはお前らだけだぁー!! 俺を見捨てないでくれー!!」


 半べそかきながら俺は学に抱きついた。


 友情最高! ファック父さん、ファックまいマザー!!


「ふふ、いきなり何メンヘラになってるんだよ」


 メンヘラ……!! そう言えば瞳ちゃんは学達に自分の本性を明かしたのか?


 俺は学の耳元で小さな声で聞く。


「お、おい学。お前ら瞳ちゃんの本性……」


 ものすごい殺気を、学の後ろに立っている女性から感じる。


 恐る恐るその人に目を向けると、瞳ちゃんがメンヘラモード時の顔つきで、俺を見ている。


「学、今の事は忘れてくれ。俺の命に関わる情報だ」


 瞳ちゃんは右手で銃のような形を作り、自分のこめかみに当てている。


 瞳ちゃん。いや、瞳様。それは、あなたの本性を誰かにバラしたら、心中するって事でよろしいのでしょうか?


 瞳ちゃんは俺の心を読み取ったかの様にコクンと首を縦に振った。


 わー、以心伝心。やっぱり俺らって運命共同体なんですねぇー。


 俺はとんでもない死神に目を付けられてしまったのかもしれない。


 『この世界の神になる』、とかほざいてた中二病より、俺の方がよっぽどタチ悪い死神持ってるよね? 死神代行して戸魂界ソウルソサイエティに行けば隊長になれちゃうよねコレ!?


「恋次、お前、汗やばいぞ? 本当に大丈夫か?」


「は、は、はぁ!? 何言ってんだよ学ぅ。これはあれだよ、俺の魂が抜け出してんだよ」


「魂抜け出してたらまずいんじゃ……」


「と、とにかく楽しもうぜ。な! 瞳様! じゃなかった、瞳ちゃん!」


「そうだよ。恋次君もきっとこのメンバーに囲まれて幸せなんじゃないのかな?」


 感情の切り替え早すぎだろぉー!! さっきまで殺気ダダ漏れしてたよね!? 何でいきなりそんなエンジェルスマイル出来るの? 女優なの?


「瞳ちゃんいい事言った!! 恋ちゃん、もっと食べて食べて!」


 光子は俺の口におにぎりを詰め込む。


 俺はもちろん瞳ちゃんの殺気を感じ取るが、何も抵抗は出来ない。


「ねぇ、もう一回皆んなで集合写真撮らない? 前の集合写真は記憶喪失中の恋次で、今回の集合写真はいつもの恋次。なんか青春っぽいじゃん!」


「いいね! やろうやろう!」


 皆んな乗り気だ。だが俺は写真が好きじゃない。特に理由もなく、何となくだが。


「ほら、恋ちゃん早くこっち来て!」


「えー、マジで撮んのかよー?」


 俺は光子に腕を引っ張られて真ん中に連れてこられた。


「シャッター切れるまで残り10秒! 皆んな笑って!」


 光子は俺の腕を掴んだまま、そしてシャッターが切れる直前に、瞳ちゃんも俺の腕を掴んで来た。


「パシャ!」


 学が携帯で撮った写真を全員に転送する。


 俺は転送された2枚の写真を見比べた。


 前の集合写真の俺は、下手な作り笑いをしている。


 今回の集合写真には、両隣にいる性格に難ありの美少女2人の、エンジェルスマイルに引けを取らない俺の笑顔が写っていた。


 ふっ、やっぱ俺に笑顔は似合わないな。


 

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