第37話 ラブコメの神様はいつも俺の味方をする。
「それより瞳ちゃん、今の話って……」
瞳ちゃんはテトラポットを忍者のような俊敏さで抜けていき、そのまま走り去る。
「は!? ちょ、ちょっとー!!」
俺から逃げるように走り去って行った瞳ちゃんを俺は追いかける展開となった。
恋愛教め、どんだけ俺を入信させたいんだ? それに記憶喪失の時の俺! なんで、スリッパで外出てんだよぉ!!
スリッパで思うように走れない俺は、瞳ちゃんにグングンと差をつけられ、見失った。
「クソっ! どうすれば……!」
「あ、恋次! 瞳ちゃんとの話は終わったのか?」
「学!! 瞳ちゃん見なかったか!?」
「え、れ、恋次もしかして記憶が戻ったの!?」
「そんな事はどうでもいい、瞳ちゃん見つけたら教えてくれ! 後この事は誰にも言うな!」
他の奴らに瞳ちゃんの本性がバレれば、瞳ちゃんはもう、俺らと一緒にはいられなくなると思い、俺は学にそう告げた。
なんで今更俺は瞳ちゃんの心配してるんだ!? まぁいいや、とにかく瞳ちゃんを探さないと。
「クソ、足速いな瞳ちゃん。まじでどこ行ったか、わからなねぇ……」
俺はとりあえず海周辺を探したが、瞳ちゃんの姿はどこにもなかった。
そろそろ日が暮れる。暗くなれば探すのは困難……、そうか!
俺は港に向かった。
「おっちゃん! 黒髪のオカッパの可愛い女の子、今日船に乗せた?」
「ん? そんな子は乗せてねぇな」
「そっか、ありがとう!」
俺はそのまま、今日の本島行き最後のフェリーを見送った。
フェリーに乗らなかったって事は、まだこの島に瞳ちゃんはいる、って事だよな。
日は海に沈み、綺麗な満月が顔を出す。辺りは暗闇に包まれ、人を探すのは困難な状況になる。
それでも俺は、スリッパも履き替えずに瞳ちゃんを探した。記憶が戻った今、彼女に伝えたい事があったから。
時計の針は夜の9時を回っている。腹も減った。もう走る気力もない。
それでも俺はフラフラの足を引きづりながら、瞳ちゃんを探し続けた。
「もう、ここ以外全部探した、よな」
俺は肝試しをした【久世森】の前に着いた。
携帯電話の小さな光を頼りに、俺は森の中を進んだ。
行き先は【久世森】の中にある鳥居。
俺はもちろん、鳥居までの行き方など覚えてもいない。
ヘンゼルとグレーテルみたいに、パンのかけら置いてくるんだった。あ、それだと帰れないんだっけ?
俺は森の中を彷徨うように歩き続ける。履いていたスリッパは、もうボロボロだ。
茂みをかき分け、枝を踏み足はボロボロ。ラブコメアニメの主人公のように。
「はぁはぁはぁ。やっと着いた……」
なとか鳥居を見つけた俺は周りを見渡す。だが瞳ちゃんはいない。
体力を使い切った俺は、鳥居にもたれかかって、座り込んだ。
「はぁ、はぁ。今こそ力貸せよ恋愛教! 追いかけた女の子をボロボロになって見つける。お前らが大好きな展開だろーが!」
そんな愚痴をこぼしつつ、俺は瞳ちゃんの事を考える。
瞳ちゃんが俺のことを、そんな風に思っていたなんて……、ちょっと怖くね?
ただ嬉しくもあった。俺の思いは瞳ちゃんには伝わっていなかったが、少なくとも、沖縄に一緒にいた1週間は、彼女と両思いだったのだ。
熱量はかなりの違いがあったらしいけど……。
「ダメだー。やっぱ見つかんないかぁー!」
俺が諦めかけたその時、草むらがガサガサ、と動く。
まじで!? やっぱり俺って恋愛教の教祖になる素質あるくらい、ラブコメ展開引き寄せちゃうの?
「チュン、チュン」
……、鳥?
紛らわしい事すんな! 巣に帰れ! 良い子は外出していい時間じゃねぇーんだよ!!
「れ、恋次君? な、なんでここに……」
瞳ちゃん本当にキタァー!! やっぱ、俺生まれながらにして教祖様? だからそんなに勧誘してくるの!?
「瞳ちゃん……、今の俺と、もう一度しっかり、話をしてくれないかな?」
ふっ、さすが俺。切り替え早い。常に冷静。
「それって……、遂に私のこと愛してくれるの!? そういうこと!? ねぇそうだよね? そうって言って!!」
怖い怖い怖い!! 迫られるって、こんな感じなんですか? 記憶なくした時の俺答えてください。
「あ、あはは……、そ、そう言う訳では……」
「やっぱり……。ねぇどうして!? どうして私だけを見てくれないの!?」
メンドクセェー!! これがメンヘラってやつ!? 記憶喪失恋次、今すぐ謝れ! お前が瞳ちゃんをこんな化け物に覚醒させたんだぞ!!
「ねぇ、恋次君は私の事、嫌い?」
「そ、そんな。嫌いな訳ないじゃないか!!」
「なら付き合ってよぉ!! 確かに私は恋次君を騙してた。沖縄で出会ったのも私の計画通りだし、海で男の人達に絡まれに行って、恋次君に助けてもらおうとしたのも私の計画」
……、ごめん記憶喪失恋次、お前のせいじゃない。こんだけ瞳ちゃんの計画に引っかかった俺のせいじゃねぇーかぁーー!!
「そ、そそそそそこまでしてまで、どうして俺を……」
「好きだから!!」
まっすぐな目、つぶらな瞳。これは本心だ。でも騙されるな宇都宮恋次! 彼女は、極度のメンヘラにストーカ気質を合わせ持った、最上級モンスターだ!!
付き合いでもしたら……、毎日家の前で待たれて、学校の前で待たれて、休日は家に来て……、これなら恋愛脳の方が100倍マシだぁー!!
ラブコメの神様! どうかお願いです! 一生童貞でいいので、俺を解放してください!!
「ご、ごめん瞳ちゃん! 瞳ちゃんの気持ちには答えられない!!」
答えたら俺の命が危険だ。瞳ちゃんとああゆうことはしたいけど……。ぐへへ。
「どうして!? 私の事嫌いじゃないなら、お試しで付き合ってくれてもいいじゃん!!」
フザケんなぁー。お試しで青酸カリ舐めるのは、どこぞのチビッコ名探偵だけじゃ!!
お試し終わったら怨めしに変わるんだろ!?
「お、俺……、好きな奴がいるんだ!」
学は友達として好きだし、好きにカウントされるよね? ね? ね!?
「……、また、あのクソビッチなのね。私の邪魔をするのはまた!!」
また?
「もういいわ、恋次君、そういう事なら、さようなら。また来世で会いましょ」
そう言うと瞳ちゃんは、ポケットから小さいナイフを取り出した。
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