宇都宮恋次 記憶喪失編
第32話 俺は誰で、君たちは誰。
「……次君! 起きて恋次君!」
目を開けるとはそこは病院の天井で、知らない美少女4人と、一人の男の子が人の名前を叫んでいた。
「……あの……、あなた達は誰ですか?」
「……!!」
俺がそう言うと慌てて1人の男の子が病室から出て行った。そもそも俺は何も思い出せない。
なぜ俺が病室のベッドで寝ていて、こんな美少女4人に悲しい顔をされながら見守られていたのか。そもそも自分は誰なのか。何も思い出せない……。
「れ、恋次君……。私、相田瞳! わかるでしょ!? ねぇ!!」
鬼気迫る表情で黒髪のおかっぱをした美少女は俺に泣きつく。
「ご、ごめん。どこかで会ったことありますか?」
何が起きているのか、俺には全く想像もつかない。
「おにぃーちゃーん!!」
一番幼い少女は何故かお兄ちゃんと叫びながら泣いている。
他の2人は言葉を失った様子だ。
「あ、あのぉ……、すいません。いまいち状況が掴めないんですけど……、これって何のハーレム展開ですか?」
俺は何を言っているんだ?
無意識にハーレム展開などと言う下世話な言葉が出てしまった。
「れ、恋ちゃん……」
俺がこの4人の中で一番可愛いと思ったショートカットの美少女も涙を堪えきれずに、大粒の涙を、声を殺して流している。
本当にどう言う状況なんだコレ? 俺は何者なんだ?
「意識が戻ったと言うのは本当ですか!? どいてください!」
最初に飛び出して行った男の子がナースを連れて来た。きっと、いつでも冷静な判断ができるいい人なんだろうな。
俺はナースに連れて行かれ、脳の精密検査を受けた。
ああ、なるほど、俺は事故か何かにあったのか……。だとしたら病室に居た5人は俺の友達、かな?
「検査の結果が出ましたので、お連れの方も一緒に、お話を聞いてください」
俺は5人と一緒に先生の話を聞いた。
「宇都宮さんは脳にダメージを負っていて、恐らくそれが原因で、記憶の情報が曖昧になっていると思われます」
いわゆる記憶喪失って奴か……、そんな感じはしてたけど。
「これは一時的な記憶障害なのか、長期的なものになるかは分かりません。ただ、記憶を無理矢理、思い出さそうとすると、さらに脳に負荷がかかり一生記憶が戻らない事になるかもしれません。ですので、あまり急がずに、ゆっくり治療して行きましょう」
脳のダメージ自体はそこまで深いものではなかったようで、俺は2日後に退院した。
「それにしても恋次、記憶喪失とはまたまた王道のラブコメ展開に持って行ったね」
「どう言う意味ですか?」
「……、ああ、悪い悪い。今のは忘れてくれ。恋次の両親が明日沖縄に着く、って言ってたから、今日はまぁ別荘に戻ってゆっくり休みなよ」
恋次、恋次って。それが友達から呼ばれてる名前だったのか。それに別荘って、俺って金持ちの家の息子だったんだ。
綺麗な白塗りの家に着くと、病室にいた4人の美少女達も同じ別荘にいた。
「や、やぁ……、ただいま……」
「恋次君……」
「恋ちゃん! 記憶は戻った!?」
帰るなり一番可愛いショートカットの女の子が俺に飛びついて来た。
本当に可愛いなこの子。まつ毛長いし、透き通った瞳、鼻筋はくっきり高くて男の憧れみたいな顔してる。
俺ってこんな子に恋ちゃんって呼ばれて懐かれてたの? めちゃくちゃ記憶取り戻したいんだけど……、
「みっちゃん、ダメだよ恋次をそんなに刺激しちゃ! 医者も言ってたじゃないか、焦らずじっくり、って」
「ご、ごめん…… 」
ショートカットの美少女はまた悲しい顔を見せた。
「だ、大丈夫ですよ別に。それに嬉しいです。俺の事を思ってくれる人が、こんなにたくさんいるなんて」
「れ、恋次……、お前絶対記憶取り戻さない方がいいよ」
なんて不謹慎な! でもまぁ確かに、記憶を取り戻すのは少し怖い。
俺はこの人達にとって、どんな存在だったのか。俺はこの人達にどんな迷惑をかけていたのか。
もしかしたら俺はイジメられていたのかもしれない、イジメていたのかもしれない。真実を、1度無くした記憶を取り戻すのは、案外勇気がいるものだ。
「じゃあ、海の家バイトの給料も貰った事だし、今日は恋次の退院祝いでもするか!」
「そ、そんな。大丈夫ですよ、俺に気を使わなくても。たった2日しか入院してないんだし」
「僕達がやりたいからするの!」
やっぱり学君はいい人だ。記憶を無くす前の俺と親友だったに違いない。
俺の退院パーティーは記憶を無くした俺でも楽しかった。正確に言えば、楽しくして貰った。
パーティーの後片付け、そんな時、俺は相田さんに声をかけられた。
「あの、恋次君。記憶はまだ戻らない……よね?」
「あ、はい。まださっぱりダメで……」
「そっか。私、恋次君の記憶が戻るまでずっと付き合うから! 頑張ろう!」
「あ、ありがとうございます……」
相田さんもかなりの美人さんだ。笑顔を絶やさず、常に俺の事を気にかけてくれる。
ただ俺は、相田さんの笑顔や言動が、彼女の作り出したもう1人の彼女としか思えなかった。何か裏がある、そんな気がして止まなかったのだ。
俺の記憶が無くなる前、俺は相田さんにどんな印象を持っていたんだろう……。
こうしてパーティーの余韻に浸りながら、俺の別荘生活1日目は終了した。
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