第31話 ナンパも程々に!?

 結局俺は、光子に戦力外通告を受け、学と共に調理担当に戻された。


「結局恋次と調理か」


「そう嫌そうな顔すんなよ。最後の日くらい恋愛事は忘れてバイトに専念しようぜ」


 Bだな。


 光子と五十嵐の客引き作戦は大成功を納め、バイト最終日はかなりの黒字で終わりそうだ。


「頑張ってるね、恋次君、学君」


「瞳ちゃん!? 何でここに!?」


 恋愛事は忘れてと言ったのも束の間、俺の前には天使が現れる。やはり俺は恋愛教に歓迎されてるようだ。


 もしかして瞳ちゃん、3日間も俺に会えない寂しさで会いに来てくれたんじゃ……。俺も寂しかったぜ瞳ちゃん。


「私がおにーちゃんが働いてるとこ見たいってワガママ言って連れて来てもらったのだー」


 はいはい、どうせそんな事だろうと思ってましたよ。全然期待なんかしてなかったよ? 分かってたし! 


「瞳ちゃん、フランクフルト食べる?」


「じゃあ恋歌ちゃんの分と2つちょうだい」


「オッケー、すぐ作るから待ってて!」


 瞳ちゃんは今日も可愛いな。


 白のワンピースに白の帽子。沖縄の坂道で初めて出会った時と同じ服装をしている。


 再開したのはたった10日前だが、俺はもっと、ずっと昔から瞳ちゃんと沖縄で生活していた気分だ。それほどこの10日間は充実したものだった。


「はい! できたよ!」


「ありがとう! 美味しそう」


 瞳ちゃんがフランクフルトを頬張る瞬間、俺は目を瞑った。


 俺にとって瞳ちゃんは周りのギャルとは全く別の存在、いわば特別なのだ。


「美味しい!」


「それはよかったよ。今日はこの後どうするの?」


「うーん、恋歌ちゃんと一緒に海でもぶらぶらしようかな?」


 いいなぁ、恋歌のやつ。


「じゃあ頑張ってねおにーちゃん!」


「ああ、ありがとうな。2人も気おつけて!」


 フランクフルトを食べ終えた2人は砂浜を散歩しに行った。


「瞳ちゃんの水着姿みたかった?」


「ああ、まぁ正直に言うとみたかったな。でもまぁ瞳ちゃんを見れただけで元気でるよ」


 自分ではまだ、気づいていなかった。俺にとって瞳ちゃんがどう言う存在なのかを。


 長い事、恋愛を拒否して来た俺は、好きと言う感覚が鈍っていたのだろうか。俺が瞳ちゃんと付き合いたいと思っているのはもちろんだが、その為に何か自分から行動しようとは微塵も思わない。瞳ちゃんを見れるだけで幸せなのだ。


 光子と五十嵐が連れて来た客も、時計の針が3時を回った頃にはマチマチになっていた。


「よし、少年たちよ、今日はよく頑張ってるな。1時間だけ休憩して来ていいぞ」


 店長の言葉に甘え、俺と学は1時間の休憩をもらう事にした。


 海の家バイトをしてから初めてもらう休憩の時間、俺は2時間ほど前に恋歌と散歩しに行った瞳ちゃんを探しに、砂浜を歩いた。


「どこまで行ったんだろう瞳ちゃんたち…… 」


「きゃっ! 離してください!」


「いいじゃん、お姉さん大学生? 俺らと一緒に遊ぼうぜ」


 瞳ちゃん!? それにあれは……、


 初日に光子と五十嵐をナンパして、店長に返り討ちにされたゴキブリ共が、今度は瞳ちゃんを強引にナンパしていた。


「ちょっ! やめて! 誰かー!! 助けてください!」


 瞳ちゃんの目からは涙が流れている。


 俺は自分の運命を呪った。この恋愛教に勧誘され続ける運命を。


「すいません! 彼女俺の連れなんで! 乱暴なことは、止めてもらえますか?」


 男たちは俺をギロッと睨む。


「なんだ、お前はこの前、焼きそば投げつけて来たヒョロ僧じゃねぇか」


 さすがに焼きそば投げつけられたら覚えてるか……、


「この前は世話になったなぁ? 今日はあのマッチョいねぇみたいだな」


 やばいな、これ絶対仕返ししてやるー、ってパターンじゃん。


 でも大丈夫! 俺には恋愛教に勧誘され続ける運命がある。つまり、ここは何やかんやこいつらから瞳ちゃんを逃して、恋愛に発展するパターンだろ?


 恋歌の姿は見えないが、おそらく誰かに助けを求めに行ったのだろう。とりあえず、瞳ちゃんには先に逃げてもらって、その後土下座しよ。


「瞳ちゃん! 逃げて!」

 

 瞳ちゃんは俺を見て心配そうな顔を浮かべていたが、俺の言葉通り、逃げてくれた。


 はぁ、これで堂々と土下座できるってもんだ。


 俺が膝をつこうと屈んだ瞬間、


「ドガ!!」


 何が起きたかはわからない。ただ、俺の首にはとんでもない衝撃と、痛みが襲った。


 そして砂浜に倒れこんだ俺の上に男が馬乗りになり、俺は殴られ続けた。


 ああ、う、嘘だろ……、意識が……。俺、ここで、死ぬのか……?


 俺が覚えている最後の景色は、俺を羽交い締めにして楽しむ悪魔のような男の顔ではなく、先に逃げた瞳ちゃんの心配そうな顔だった。


 そして俺は意識を失ってしまった。

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