第29話 2日目バイトはもう慣れた!?
海の家バイトは3日間泊まり込みの契約で、最終日に3日分の給料が支払われることになっている。
俺と学が泊まる家は、絵に描いたようなボロ屋。4畳の中に何も無い殺風景な部屋、建て付けが悪く、開閉するたびにキィキィと嫌な音を出すドア、トイレとシャワーはカビだらけで匂いもひどい。
「俺達こんな場所で3日も過ごすのかよー。耐えらんねぇー」
「まぁいいじゃないか。明日も五十嵐さんの水着メイド服姿が見れるんだから」
学は、俺が今までに見たことのないニヤケ顔をしていた。今日の五十嵐の姿を想像いていたんだろう。
うわっ! キモ!
エアコンも無い蒸し暑さの中、扇風機の風だけを頼りに俺達は就寝した。
「ふぅあぁぁ。暑すぎて全然眠れなかった。最悪だ」
「僕も五十嵐さん想像して中々眠れなかったよ」
こいつまじで変わったな。映画マニアから五十嵐マニアにイメチェンしてんじゃん……。
「少年達よ。今日もよろしく頼むぞ」
「おっす、店長任せて下さい!」
当然のごとく光子と五十嵐はまだ来ていない。どうせ着替えに時間かかってるんだろう。
「今日は鼻血出すなよ?」
「ふん! 昨日は初見だったから出ちゃったけど、昨日、夢の中でたくさん見たから大丈夫だよ」
「お前、さらっと気持ち悪いこと言うな」
「かき氷3個下さーい」
「かき氷3個ですね。720円になります!」
俺好みのD、
「それにしても女子は今日も着替えに時間かけやがって。時給換算おかしくなるだろ」
「かき氷2個下さい」
「お買い上げありがとうございます!」
おほぉー、Gか?
「まぁ着慣れない服だから時間かかるんでしょ。それくらい許してあげなよ」
「今日は2日目だぞ」
「かき氷10個下さい!」
「へいお待ち!」
……、
「何で今日はかき氷しか売ってねぇーんだよ!! 焼きそば道はどこに行った!?」
すると後ろから巨漢がズカズカと俺達の会話に割り込んでくる。
はぁー、またこのパターンか……、
「かき氷とは人生。冷たい氷に複数の甘いシロップ。女性は男に対し、最初は冷たく接するものの段々と心を開き、甘くなっていく。かき氷を極めた男は、モテるぞ」
「店長……。お、俺かき氷道極めて……、ってなるかぁーー!! そもそもなんで俺達の店は1日1商品しか出さないんすか。そのせいで周りの海の家に比べてガラガラじゃ無いっすか」
店長の店は周りの3分の1程度しか客が入っていない。恐らく昨日の悪い噂が広まってしまったのだ。
「商品を1つしか出さない理由。それは……」
「そ、それは?」
何やかんや貫禄のある店長の事だ、何かすごい考えでもあるに違いない。
「金が無いからだ」
…………、バイトする店絶対ミスった。俺達の給料、大丈夫だよな?
「あっれー? 今日は全然人がいませんなぁ?」
そうだ! 充子と五十嵐が来れば男の客で賑わうはずだ!
光子の声を聞き後ろを振り向く。
な、何だぁー!! この昨日よりも眩しい輝きはぁー!?
白のレオタードに水色のエプロン。レオタードは伸縮素材で出来ており、肌にピッチリ吸い付いて、ボディラインがクッキリと見えている。
昨日の水着メイド服の方が圧倒的に肌の露出は激しかったが、今日の制服に萌え要素はない。ザ・エロス!! 圧倒的エロ! これはエロスのライオンキングやー。
ただ、なんかこの衣装、綾○レイっぽいけど、大丈夫なのだろうか。
「五十嵐さん。今日の衣装も似合ってるよ!」
今日も鼻血出しとるーー!!
「店長……、一応ですけど聞いていいですか?」
「これは、世界の男達の趣味だ」
「いや、そうじゃなくって。もしかしてお金が無くて1日に1商品までしか出せない理由って……」
「女子の制服を、懲りすぎたせいだ……」
「やっぱそうかよぉー!! こんな手の込んだ制服2種類も用意するなんて。バカなの!? ねぇあんたは世界のバカを代表してるの!?」
今日はオタク系男子が店に集まる。もちろん目的は光子と五十嵐だ。特に五十嵐の青紫色の髪の毛はオタク達に大人気。2ショット写真をせがまれたりしている。
「なぁ学。お前あれほっといていいの?」
「ん? ああ、気にすんな、どうせ上手くいかないから」
上手くいかないってどう言う意味だ?
「ねぇ君、ぼ、僕と写真を一枚」
オタクの男はぶら下げたカメラでレンズ越しに五十嵐を覗き、シャッターチャンスを狙っている。
さ、さすがにあれはダメだろ。学が止めないなら俺が止めに行くか。
「あのぉーお客さ……」
パリンとカメラが大破する音がする。
「妾を写真で収めようなど、いい度胸じゃの。人の命を現像するその機器を妾に向けるでない」
……、そういえば……。
俺は飛行機の中で五十嵐に握られていた手の感触を思い出し、手をさすった。
あ、あの握力は……、メスゴリラ級だ。
五十嵐のメスゴリラっぷりに怯えてオタク達は逃げるように店から消えて行った。元々、海にきてる女子を盗撮しにきたのだろう。カメラを潰されても当然だ。
「嬢ちゃん、やるな。かき氷マスターの称号は嬢ちゃんに明け渡すぜ」
「いらぬ......」
五十嵐は店長の誘いを断り、黙々と食器を洗い始めた。
「あのさ、一件落着みたいな雰囲気出してるけどさ、客ゼロなんだけど!! どうすんのコレェー!?」
俺達に残された時間は残り1日。果たして店を繁盛させ、給料をもらう事は出来るのだろうか。
夏のサバイバル、最終ラウンドのゴングの鐘は着々と近づいていた。
てか、店長が制服に金かけないで、メニュー揃えればこんな事態にはならなかったんじゃ……。
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