第28話 焼きそば道を極めよ!?
照りつける太陽、真っ白な砂浜、青く透き通るオーシャンビュー。俺たちは今、海の家でバイトをしている!
ジリジリと肌を焼くような暑さの中、俺は気合が入りまくっていた。
海の家のパラソルに座るのはたった1枚の小さな布切れで胸と局部を隠した、美女、美女、美女?
たわわに実った果実は美女×2! その果実を凝視しても何の問題もないのが海の家バイトなのである。鼻の下は伸びまくり、いずれ猿に退化するのではなかろうか。
瞳ちゃんがいなくて良かった。こんな破廉恥な場所、彼女には似合わない。
「つーか、光子と五十嵐はどうした。なんで俺らばっかり焼きそば作らされてるんだよ」
「焼きそば2つお願いします」
「はい! 焼きそば2つですね。お買い上げありがとうございます!」
幸せのCカップ。
「店長が言うには『女子は俺が用意した制服に着替えてもらう』って言ってたよ。脱衣所で着替えてるんじゃない」
「まさか極細水着だったりしてな」
「焼きそば4つください」
「はいお待ち!」
B、いやぎりAかな。
「僕は五十嵐さんがそんな水着を着る所は見たくないかなぁ。なんかイメージと違くないか?」
「お前はギャップ萌えを知らないのか。いつも和風な感じの五十嵐が極細水着着てたら興奮するだろ」
「焼きそば10個ください」
「焼きそば10個ですね。ありがとうございます」
……、
「って、なんでこの店には焼きそばしかねぇんだよ!」
焼きそばしか売っていない海の家に文句を言っていると、後ろからズカズカと巨体の男が会話に割り込んでくる。
「焼きそばこそ人生。赤い紅生姜は紅一点、濃いソースに酸っぱい紅生姜はまさに青春の縮図。焼きそばを極めた男は……モテるぞ」
「て、店長……、俺、俺やります! 絶対に焼きそば道極めて見せます!」
「男らしい顔つきになってきたじゃねぇか」
「最近恋次も恋愛脳になって来ている気が……」
色黒の肌にゴリマッチョのダンディな店長と共に俺はひたすら焼きそばを作り続ける。
「それより店長。女子は何してるんですか?」
「……、知りたいか?」
神妙な面持ちの店長に俺は固唾をのむ。
「し、知りたいです……」
「着替えてる」
いやっ、いちいち普通のこと言うのもダンディじゃなきゃあかんのかい店長は!
あっ、奇跡のF……。
俺は欲にまみれながらひたすら焼きそばを作り続けた。
「おっ待たせー!! おー、焼きそばだけしか売ってないのに結構繁盛してますなぁー」
ま、眩しい!! な、なんなんだこの眩い光はー!!!
白と黒の生地が薄いメイド服の下に黄色の水着。
こ、これは……、萌えの要素の中にエロスを詰め込んだ、まさに、エロスの宝石箱やー!!
「て、店長、一応聞きますが、これは店長のご趣味で?」
「……、俺じゃない、全世界に生きる男達の趣味だ」
俺店長に一生ついていきます!!
「わ、妾はこのようなハシタナイ服を着るのには抵抗が…… 」
制服を着用した五十嵐は耐えきれない恥ずかしさにミニスカートのメイド服を手で抑えて悶えている。
絶対それわざとやってるよね!? 可愛すぎるんですけど。でも学は正直幻滅しただろうな。
「五十嵐さん、めっちゃ似合ってるよ!」
鼻血を垂らしながら学は親指をピンと立てた。
「お前さっきまで『五十嵐さんがそんな水着を着る所は見たくないかなぁ』なんてほざいてなかったか? なに鼻血出してんだよ」
「暑さにやられただけだよ」
光子達の水着メイド服に吊られてか、男の客がどんどん増え、それに反比例するかのごとく女性客の足並みは減っていった。
「店長、なんか急に暑くないですか? サウナにいる気分なんですけど……」
「気にするな。これはお前に与えられた試練だ。この暑さを乗り越えて焼きそば道を極めろ」
「はい店長!」
「焼きそば道って結局何かわかってるのか恋次のやつ」
店の周りには筋肉質な男どもで溢れかえっている。
汗とサンオイルでピカピカに黒くテカる体はゴキブリの様だ。
ゴキブリって1匹出ると30匹いるって本当だったんだ……。
「ねぇねぇお姉ちゃん達。こんなむさ苦しい所いないで海入って遊ぼうぜ」
「そうだぜ。フンー! こんなヒョロくて女々しいやつらより、フンー! 俺らみたいな男らしい、フンー! ナイスガイと遊ぼう!」
ナンパか。まぁ光子と五十嵐が可愛いしスタイルもいいからナンパされて当然だよな。それとフンフンうるさっ! 会話中にポージングしないと話せないのかこいつらは。
「いや、姉ちゃん! 俺の方がいい体してるぜ!?」
「いや俺の方が!」
「いや俺だ!」
急にボディービル大会始まったぁー!! な、なんだこいつら……。
「そして学! お前もちゃっかりポージングとるな!」
「いや、つい」
「つい、じゃねぇよ。お前の3倍くらいのデカさしてるじゃねぇかあいつら。お前が入ったらゴリラの中にチンパンジーいるみたいだぞ」
そうこうしている内に、男達が強行突破に出る。
「つべこべ言わずこっちに来いよ!」
「痛っ! ちょっ、放してください!」
一人のゴキブリが光子と五十嵐の腕を無理やり引っ張って強行突破に出ようとした。
これは流石に見過ごせないな。脳ある鷹は爪を隠す。俺の真の力を見せてやるか……。
「ちょっとお客さん? 彼女達に乱暴な真似は……」
「あぁん!? 文句あんのかヒョロぞう!」
すごい形相で俺を睨みつけて来るマッチョ達。
ふっ、俺との力の差もわからないゴキブリ共が。
「な、なんでもないでしゅ……」
「そうか! ヒョロぞうは頑張って焼きそば作ってろ」
へい! かしこまりやした!
「お、お客さん。か、彼女達を放してあげて下さい! 嫌がっているので!」
学!? 何してんだお前!? あいつらの筋肉に吸収されちまうぞ!?
学の声、体は震えていた。それでも学は光子を、五十嵐を守ろうと勇気を振り絞って前に出たのだ。
「おい、いい加減ウゼェんだよ。失せろヒョロぞう共が!!」
男のビンタが学の右頬にクリーンヒットし学は砂浜に倒れこんだ。
あいつら……!!
親友に手を挙げたゴキブリ共に俺はカッとなり、鉄板で熱しられた熱々の焼きそばを男達の背中にフライ返しを使って投げつけた。
「アッツゥゥゥゥッゥウウ!!!」
「テ、テンメェ……、何しやがんだ!!」
「いやぁー、この店に集まる人達全員が黒く日焼けされている様でしたので、焼きそばソースを使って黒さをさらに引き立ててあげようかと」
「お、お前覚悟は出来てんだろうな!?」
「っへ! かかってこいよ雑魚共、いっぺんに相手してやる」
俺に焼きそばを投げつけられ怒り狂った男達は拳を振り上げ俺に殴りかかってくる。
ここまで男達を挑発した俺には当然勝てる自信が……、ない。そりゃあない。筋トレなんてしたことないし。こいつらの腕、俺の腰ぐらいの太さあるじゃん。勝てっこねぇよ。
とりあえず何発かは耐えよう。あそこまでイキって1発KOじゃさすがにかっこ悪すぎるもんな。
俺は入院を覚悟し、目を瞑った。
「ぐわっ!」
「ゲフっ!」
…………、あれ? 痛くない。殴られた感触も無い。
恐る恐る目を開ける。俺の目の前には男達の倒れこんだ姿があった。
ま、まさか生と死の狭間で俺に隠された力が解放しちゃった的なやつ? まさかここから急に異能力バトル物語にシフトチェンジですか!?
まじまじと自分の両手を見つめる。
俺って綺麗な手してるなぁ。
「よくぞ勇気を出したな少年達よ。お前達はもう焼きそば道を極めた、と言っても過言では無い!」
俺の後ろには腕組みをした店長が仁王立ちしていた。
あ、これこいつらやったの店長か。よかったー、急にバトル物、始まるのかと思ったぜ。
「立つんだ少年! 止まない雨はない。晴れたら上を向いて虹を見るんだ」
店長は倒れこんだ学に手を差し伸べる。
「て、店長……、これが焼きそば道なんですか?」
「そうだ」
「店長ォォォォォォ!!」
店長の弟子が1人増えた。
「ねぇスミレッチ、今日はもう上がろっか……」
「そうじゃの……」
海の家にはむさ苦しいマッチョの男達と焼きそば道を極めんとする2人の若者の姿しか見えない。そんな俺たちは……、周りの人から痛々しい目線を送られていた。
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