第26話 買い物の後が楽しい!?

 宇都宮恋次、恋愛教に勧誘され続ける事6年弱、断り続けてきた入信を、今日という日を持って断念するかもしれん。


 だって……、左には恋愛教教祖様の邪神早乙女光子、右には清楚女神相田瞳がいるんだもん。


 うっはー、これやべー!! 何のハーレム展開? 何てタイトルのラブコメ?


 常に一緒にいた光子もはたから見れば美少女だ。さらに、俺は今日に限っていえば光子に感謝している。こいつは常に恋愛展開を意識して行動する。つまり、俺と瞳ちゃんが恋愛に発展する状況を自然に作り出してくれるのだ。


 恋愛教サマサマ。ああ光子様、あなたと幼馴染で本当によかったです。


「本島はやっぱり人多いねぇー」


「観光客の人も沢山いるからね! 光子ちゃんどこに買い物しに行く?」


 ナイスパス瞳ちゃん! 光子なら確実に恋愛スポットに……、


「とりあえず最初は……」


 うんうん、どこよどこよ。美ら海水族館? 国際通り? おきなわワールド? どこだ!?


「イオン!」


「……」


「じゃあイオンモールまで案内するね」


「よろしく瞳ちゃん。恋ちゃん何ボサッとしてるの! 早く行くよ。今日は私たちの荷物持ちなんだから!」


 さっきの入信の話やっぱ無し。全部無し!! こいつが幼馴染とか最悪だぁー!!


 光子と瞳ちゃんは洋服屋で楽しそうに服を選んでいる。これの何が楽しいんだ、どうせ買わないくせに……。


 これがリア充と非リア充の違いだろうか。女子はたかだか1枚の服を選ぶ為に長い時間をかける意味がわからない。


「恋ちゃん! これ似合うかな?」


「あー、うん。メッチャニアッテルー」


「恋次君、これどう?」


「めちゃめちゃ似合ってるよ瞳ちゃん! 大人の女性、って感じで!」


 まぁ好きな人が長考してるのを見るのは悪くないのかもしれない。


 光子は俺のあからさまな態度に顔を膨れさせている。


 さすがにからかいすぎたか……。


「光子! お前にはコレとか似合いそうだけど、どうかな?」


 俺はモテない訳ではない。だから非リア充の奴らとは違うのだ。女子の扱い方もわかっている。こうやってご機嫌を取っておけば大丈夫だ。


「け、結構いい趣味してるね……。試着してくる!」


 え、まじで? その辺に掛かってたセール品を適当に取っただけなんだけど……。


「恋次君。光子ちゃんには選んで私には選んでくれないの? 私ちょっと嫉妬しちゃうな……」


「こちらでどうでしょう!」


 俺は瞬時にマネキンが着ている服を見極め、瞳ちゃんに一番似合いそうな丈が少し短いピンクのワンピースを選んだ。


「あ、ありがとう。試着してくるね!」


 ふっ! これが非リア充と自分からリア充を拒んで来たやつの違いよ。それにしてもさっきの瞳ちゃん可愛かったなぁ。動画で撮っとけばよかった。


 女性物の服屋で1人で立っているのは心細かったので俺は試着室へと向かった。


 一緒にで試着しているのだろうか、光子と瞳ちゃんの会話が聞こえてくる。


「えっ! 瞳ちゃん思ったよりも大きい! 着痩せするタイプ?」


「そ、そんな事ないよぉー! 光子ちゃんの方が立派じゃない!」


 俺は思った、やっぱり今日、俺は恋愛教に入信するかもしれない……、と。


「うわっ! びっくりした! 何で恋ちゃんが試着室の前にいるのよ。まさか覗き?」


 ハハ、誰がテメェなんか覗くか。瞳ちゃんは覗きたいけど。


 瞳ちゃんも恥ずかしそうに試着室から出てくる。


「ど、どうかな?」


 か、可愛い。俺の選んだ服のセンスとかじゃない。多分瞳ちゃんはどの服を選んでも着こなしていただろう。


「か、可愛い! 似合ってるよ!」


「本当? ありがとう!」


「私は?」


 光子は、まぁ、オレンジ色ベースにパイナップルの絵が散りばめられてて天真爛漫な光子の性格に似合った服ではあるな。


「うん! 光子もよく似合ってる!」


 俺は告白してきた女子に嫌われず断るために身につけた営業スマイルをして光子を褒めた。


「本当!? じゃあ買ってくるね」


 え、あんなに悩んでたのに俺が適当に取った服でいいの!? 女子って本当に謎な生き物だな。


 女心をわかっているつもりだったが、未だに把握しきれていない俺であった。


「瞳ちゃんも俺が選んだ服で本当に良かったの? 他に気に入った服があったんじゃ」


「ううん。せっかく恋次君に選んでもらったんだもん。それに可愛い、って言ってくれたし。良かったの」


 天使だ。今日の瞳ちゃんは天使そのものだ。


 俺は買い物に付き合っているうちに、2人との気まづさなど忘れきっていた。


「なぁ、次はどこに行くんだ?」


 両手には当然2人が買った洋服屋の紙袋を持っている。


 正直この暑い中、これ以上荷物が増えるのは御免だが、瞳ちゃんにいいとこを見せようと、俺は文句1つ言わず2人に付いて回った。


「次はここよ!」


 リサイクルショップ? はぁ、ここにも瞳ちゃんとの関係を深められそうなイベントはなさそうだな……。


「このネックレス可愛くない!?」


「可愛い! 光子ちゃんに絶対似合うよ!」


 その女にネックレスなんて代物は似合わん。鉢巻でも巻いてろ。


「このイヤリング瞳ちゃんにぴったりだよ!」


 瞳ちゃんがイヤリングなんて付けても1000の可愛さが1001になる程度だろ。


「本当? ちょっと付けてみるね」


 俺の目は爆発した。


 こ、これが装飾品の力なのか……!! ひ、瞳ちゃんが大天使にクラスチェンジしたぞ!!


 こうして2人の買い物は着々と進んでいき夕暮れを迎えた。


「あと10分でフェリー来ちゃうし早く乗らないと!」


 あぁ、結局俺が待ち望んだ恋愛展開は来なかった……、俺の今日1日の頑張りって一体……。


 俺は2人が買った大量の荷物を持っている。


「ちょっと私トイレ行ってくるから運転手さんに伝えておいて!」


 光子は駆け足でトイレに消えていった。


 そう言えばあいつ国光先輩の誕生日プレゼント買ったのか?


 俺は何に付き合わされていたんだろうか。泣けてくるぜ。


「あ、あのさ恋次君。今日は買い物に付き合ってくれてありがとう」


「え、ああうん。俺も楽しかったし」


「そ、それでコレ」


 瞳ちゃんの手には小さな白い箱。


「今日のお礼……、ありがとう」


 またも天使スマイル! さらに俺へのプレゼントのダブルスマッシュ!! 効果は抜群だ!!!


「ま、マジで!? ありがとう! 開けていい?」


 俺は大量の荷物をそそくさと船に乗せ、瞳ちゃんの小さな手から白い箱を受け取った。


 中には男性用の透き通った赤の指輪が入っていた。


 リサイクルショップに寄ったのはこの為か!?


「あ、ありがとう! どう? 似合うかな?」


「うん。高校生っぽくて恋次君に似合ってる!」


 これは褒められているのか分からなかったが、初めて瞳ちゃんからもらったプレゼントに俺は感激した。


「ありがとう。大切にするよ」


「うん!」


 俺は船に揺られている間、人差し指に付けた指輪を眺めていた。


 指輪の輝きは海の上で見る幻想的な夕日よりもずっと綺麗に輝いているように、俺の目には写っていた。


 船が船舶上について俺はまた荷物を担ぐ。指輪をもらう前と後では荷物の重さが違く感じる。心が踊っているからであろうか。


 別荘に着くなり俺は学に自慢しに行く。


「おい学! どうだこの指輪。かっこいいだろ?」


「んー、なんかイキってる高校生っぽい」


「だろぉー、かっこいいだろぉー」


「人の意見取り入れないなら聞くなよな……」


 俺は学にただ指輪を見せたかっただけ。学がどう思おうが俺の知った事ではない。瞳ちゃんが似合ってると言ってくれたのだから。


 俺はルンルン気分で部屋に戻ってからも指輪を眺めていた。


 するとドアのノック音が。


 恋歌かなと思いドアを開けると光子が立っていた。


「ちょっといい?」


 俺はニヤケ顔が止まらない。


「どうしたんだ光子。相談ならいつでも乗ってやるぞぉ?」


 お気楽な俺は普段じゃありえない事も、光子にしてやってもいいと思っている。


「これ、今日のお礼」


 光子の手には白い箱。瞳ちゃんがくれた指輪が入っていた箱と全く同じ物だ。


「え? マジで?」


 白い箱を開けるとこれまた男性用の青いピンキー指輪だった。


「ありがとう光子! 大事にするよ」


「うん。じゃあお休み」


「お、おう。お休み」


 なんだか最近光子は変わった気がする。前みたいに恋愛話を俺にしなくなって来ている。


 そんな事を気にしながら俺は右手の人差し指と小指に指輪をはめ微笑んだ。


「こんな日があっても文句ねぇよな。教祖様」


 こうして俺が美少女2人から指輪をもらう形で1日が終わった。俺は今日の事を一生忘れないだろう。


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