第22話 草むらでも絶好調!?

「恋次君、何か叫んでいたようだけど大丈夫!?」


「瞳ちゃん。うん問題ないよ!」


 後で覚えてろよ学の奴!


 俺達は無事BLルートを回避して瞳ちゃん達のグループと合流する事に成功した。


 よかった。きっと、これで森からも出られる。


「お兄ちゃんはてっきり途中で光子さんと出会ってるんじゃないかと思ったよ」


 元気そうに恋歌は話す。普通、中学1年生なら森の雰囲気にもう少しだけ怖がってもいいんじゃないだろうか。我が妹ながら末恐ろしい。


「どうして俺が光子と会うんだよ」


「別にー」


 恋歌はそっぽを向いた。


 意味わかんねぇ。急になんなんだよ恋歌の奴。


「じゃあ目的も達成したし森の外行こうか」


 全員を見て言えよ。なんで五十嵐しか見てねぇんだ。お前も大概わかりやすいからな!


「そうじゃの」


 そしてお前も嬉しそうに返事をするな! 


「ちょっと待って! どうせ5人集まったなら、光子さんと国光さんのペアがこの鳥居でどうするのか隠れて見ていきたい!」


「恋歌それはさすがに趣味が悪いぞ!」


 それにあの恋愛脳カップルの事だ、噂が立ってる場所に2人でいたら何し始めるかわかったもんじゃねぇ。


「でもー」


 もう! この恋愛脳予備軍! 子供は黙ってなちゃい!


「私も見たい……、かな」


「瞳ちゃん、俺も光子と国光先輩が2人きりの時どんな感じなのか気になってたんだよ。さっ、みんな隠れるぞ!」


「おにーちゃんさっきそれは趣味が悪いって......」


「意見が変わったんだよ。コンビニとかでもよくあんだろ? アンパン買いに行ったけどホットスナック見てチキン買ってあんぱん買わない事。それと同じだ!」


「よくわかんない」


「子供にはまだ早かったな。いいか恋歌、これをって言うんだ。人の意見なんてすぐ変わってしまう。自分の意見を尊重して生きてくんだぞ俺の大事な妹よ」


「かなり違う気が……」


 こうして俺の意見が変わったところで、俺達は草むらに隠れて光子達が来るのをまった。


 この時、誰も光子達がもう既に鳥居を潜っていて、森の外にいる可能性については誰も言及しなかった。これが注意力を散漫とさせる恋愛脳マジックなのだ。


 俺と瞳ちゃんは同じ草むらに隠れた。


 ち、ちちち、近い!!! 頬と頬が当たるくらい近いぞ!?


 暗闇で顔は見えないが、瞳ちゃんと同じ草むらに隠れたのは間違いない。そして肌で瞳ちゃんの気配を感じる。頬と頬の間5センチメート程の距離に瞳ちゃんがいる。そう考えると平常心を保つのは難しい。


 鼻息荒いと思われてないか? てか近すぎキモって思われてたらどうしよう。いや、落ち着けー、落ち着けー、宇都宮恋次。キモがってる奴と同じ草むらに隠れる女子がこの世にいるはずがない!  


 大丈夫大丈夫、平常心平常心。


 強い浜風に押されて屈んだ状態の俺は体勢を少しよろめかせる。


「!!」


「ヒャッ!!」


 体勢を崩した俺の鼻先は瞳ちゃんの肌に触れた。


 スベスベだぁー。って違う違う。


「ご、ごめん瞳ちゃん。風でよろけちゃって」


「だ、大丈夫だよ……」


 顔は見えないが声色を聞いた瞳ちゃんの表情が想像できる。俺と同じように恥ずかしがっているに違いない。


 もう一回よろめいちゃおうかな?


「ねぇおにーちゃん。妹が横にいるのに何してるの?」


 瞳ちゃん同様、妹の表情もわかった。お兄ちゃんの事を軽蔑している顔だ。


「あはは、い、いたんですね恋歌さん……」


「……」


 せめて返事をしてくれー。瞳ちゃんと気まづくなっちゃうだろぉ!


「本当に何もなかったわよ恋歌ちゃん」


「わかりました。瞳さんがそう言うなら」


 俺は恋歌に感謝している。恋歌が『光子と国光先輩を見たい』って言い出さなきゃ瞳ちゃんとこんなに密着することは生涯起きなかったかもしれない。


 そして学も感謝しているだろう。どうせ五十嵐と同じ草むらに隠れてるだろうしな。


 俺は学の代わりに恋歌にお礼を言う。妹にちゃんと礼を言える兄貴ってかっこいだろ。


「恋歌、多分だけど、学お前に感謝……」


「僕がどうしたって?」


「……!? な、な、なんでお前も一緒の草むら入って来てんの!?」


 俺のすぐ後ろに学は隠れていた。


 やけに背中に気配感じると思ったらこいつか……。


「え、恋次がすぐ隠れろって言うから咄嗟に」


 瞳ちゃんとのやり取りは勘付かれてないよな!? 大丈夫だよな!? 


 俺は自分を落ち着かせるために手を握って開いてを繰り返しす。グニュグニュとした感触……、


 はっ! ま、まさか!?


「う、宇都宮殿、そ、その、く、すぐ、ったァァイ」


 お前も一緒の草むら入ってんのかよー!? しかもなんだ今の乙女ちっくなイヤらしい声は。いつもみたいにおじゃるおじゃる言えよ!


「恋次、お前五十嵐さんに何を!?」


「恋次君、今スミレちゃんの変な声がしたんだけど……」


「お兄ちゃんサイテー」


「お前ら静かにしろ! 隠れた意味ねぇーだろ! そもそもなんでこいつらは全員同じ草むらに入ってるの!? 明らかに草むらのモッコリ感が不自然だろーが!」


「うわぁー恋次は五十嵐さんを揉みしだいてモッコリしてたんだぁ」


 その変な言い回しヤメロォー!


「妾はもうお嫁にいけん……」


 肩揉まれただけだろーがぁ!!


「もうお兄ちゃんとして見れない」

 

 それは本当にごめんなさい!!!


「……」


 ドン引きしないで瞳ちゃーん!!!!


 はぁ、はぁ、はぁ。隠れてるだけなのに無駄に疲れた。


 こんなやり取りをしていると草むらに光が当たった。光子と国光先輩の懐中電灯の光だ。


「ねぇなんかこの草むら盛り上がってない?」


 光子の声と共に足音が近づいてくる。


 ヤベェ。やっぱり5人いっぺんは無理が……、


「きっと草むらも僕らの雰囲気を盛り上げてくれてるんだよ」


「……、そっか」


 クソつまんねぇ台詞で納得しやがったぁ! やっぱあいつ馬鹿だ、恋愛脳は頭支配されてネジ10本くらい入信時に抜かれてんだな。

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