第21話 俺はBL展開なんか望んでない!?

 森の中は暗く懐中電灯なしでは一歩先も見えない。海が近いせいか浜風が強く、木々の擦れる音や、虫、鳥の鳴き声がオーケストラの様に大きく鳴り響いている。


「なぁ学、鳥居とか俺らが潜っても意味ないし、さっさとこの森から出ないか?」


「そうだね。男同士で行方不明になってもなんか癪だし」


 俺と学は好きな人とペアどころか男同士でペアになった事で肝試しのやる気はゼロだった。


「なぁ学、何度も言ってるけど五十嵐じゃなくて俺でごめんな」


「そうだね。もういっその事僕は五十嵐さんを諦めて邪道ラブコメに走りたい気分だよ」


「なぁ学、邪道ラブコメってつまりそういう事?」


「そうだね。ボーイズラブ。略してBL」


 俺は気力を失いすぎて学にツッコム事もしない。あ、このツッコムはBLの意味でのツッコムじゃないから。


「なぁ学、ちなみに帰り道覚えてる?」


「そうだね。全然覚えてない」


「なぁ学、これって遭難ってやつじゃね?」


「そうなんだね」


「......ってうまいこと言ってんじゃねーよ! どうすんだ森で遭難って結構やばくね!?」


「まぁいいじゃないか。どうせ僕らは選ばれない2人なんだから」


 学はもうダメだ。こいつ映画見てたふりしてこの肝試しのペアに五十嵐をどう誘うか考えてやがったな!? 相当落ち込んでやがる。


 学の戦意は完全に喪失。何も考えられる状態ではないようだ。


「フザケンナよ、鳥居すら潜ってないのに行方不明になんかなってられるか。とりあえず叫んで他のペアと合流しよう!」


 俺はひたすら叫んだ。だが返事は返ってこない。


 おかしい。森の中に入ってまだ20分くらいだぞ? 他の奴らもそう遠くへは行ってないはずなのに、なんで返事が返ってこないんだ。


 携帯で連絡しようにも森の中は圏外。俺達にはどうする事も出来ない。


「おい学! とりあえず歩きまわるぞ!」


「そうだね」


 学の返事は常に『そうだね』嫌になるぜまったく。


「おい学、これは結構本気で命の危機だ! 一旦肝試しの事は忘れてやる気出せ!」


「そうだね」


 ま、まさかこれ、行方不明になったカップルの呪いなんじゃ……。最初に行方不明になったカップルってBLだったのか!? 俺と学をBLカップルと勘違いして試練を与えるために学に呪いをかけたんじゃ? だとしたら鳥居を潜るまでが試練なのか?


 へっ! そう言う事かよ。いいぜ、勝負してやろうじゃねぇかBLの幽霊さん。俺は絶対に学を連れて鳥居を潜ってやる。


 俺は学の手を引っ張って歩き回った。今の学の目は死んだ魚の目、つまり俺の目とそっくりだ。


 くそ! 入る前に気付くべきだった。この森がここまで深いとは。


 ここで重大な事件が起こる。懐中電灯の電池が切れた。


 光子のやつ……、ちゃんと電池入れ替えとけよ!


 俺は携帯の電気で2歩先まではなんとか見える程度の光を頼りに鳥居を目指す。


「おい、学、大丈夫か?」


 学を気にして後ろを振り向くと鉄の様に硬い何かが俺にぶつかった。恐る恐る前を見ると赤い柱だった。


 ま、まさか……、鳥居だ!!


「おい学! 今一緒に潜ってお前の呪いを解いてやるからな!」


 俺は学を肩で担いで一緒に鳥居を潜る。


「やったぞ学! 勝ったんだ!」


「そうだね」


 う、嘘だろ……? 呪いが解けてない? どうしてだ、俺は親友すらも守れないのか!?


「まなぶゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


「そんなに騒いでどうしたのじゃ?」


 その声と話し方は!! い、いがら……、


「やぁ五十嵐さん! 恋次が肝試し怖い怖い言うもんだからイタズラで1人にしてみたら僕の名前叫び出しちゃって」


「なるほど。学くんも宇都宮殿の世話は大変そうじゃの」


「まったく恋次にも困ったものだよぉー」


 ......、


「お、おい、学……、お前、呪いで意識が保てなかったんじゃ......」


「呪い? なにを子供みたいな事言ってるんだよぉ。怖いなー恋次は」


 こ、こいつ!! ただマジで落ち込みまくってただけだとー!? 俺の頑張りは? 俺達の友情は? 


 友情とは時に儚いものになりえる事を俺は知った。

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