第17話 初恋の人は夕日を見たい!?

 別荘に着くと学と五十嵐はもう帰って来ていた。


 2人でずいぶん楽しそうに話す姿はさながら付き合いたてのカップルの様だ。


「おかえり学、五十嵐」


「恋次。ちゃんと安静にしてなきゃダメだろ? って、ん? 誰だその女の人? まさかナンパでもしたの?」


「ち、違ぇよ!! 小腹が空いてさ、スーパーに買い物行ったら小学校の時よく遊んでた友達にたまたま会ったんだ!」


「なるほど。お前は本当ラブコメの展開が大好きだな」


 俺が好きなんじゃなくて神様が俺を恋愛教に入信させようとしてんだよ。


「紹介するよ、相田瞳ちゃん。俺らの2歳年上の大学生だ」


「こんばんは。相田瞳です。宜しくお願いします」


 瞳ちゃんはペコリとお辞儀をした。


「あ、ああこちらこそ宜しくお願いします。弁楽学です。恋次とは高校の同級生で、いつも仲良くさせてもらってます」


「弁楽君ね。宜しく。そちらの女の子は?」


「妾は宇都宮殿の学級委員長を務めさせてもらっています五十嵐純恋と申しまする。以後お見知り置きを」


「こ、個性的な子ね……。宜しくね純恋ちゃん」


 五十嵐のキャラにちょっと引いてんじゃねぇか。


「瞳さんと恋次は小学校の頃よく遊んでたって行ってましたけど中学校は一緒にならなかったんですか?」


「あ、うん。私小学校高学年の時に沖縄に引っ越しちゃってね。それ以来恋次君とは会ってなかったからびっくりしちゃって」


「なるほど。本当に恋次はラブコメの神様に愛されている」


「ラブコメの神様?」


「いやね。恋次はいつもラブコ」


「ウワァァァ! そ、そんなことより瞳ちゃん、この辺案内してよ! 俺スーパーしか行ったことなくて」


 俺は学が言おうとしていた事を遮り、瞳ちゃんにこの島の案内をしてもらう事にした。


「じゃ、じゃあ学と五十嵐、今度はお前らが留守番宜しくな!」


「なんで恋次の奴あんな世話しないんだ?」


「さぁ?」


 俺は小学生の頃は好きな人がいた。それも6年間ずっと同じ人、それが瞳ちゃんだ。瞳ちゃんが沖縄に転校してからも俺はずっと瞳ちゃんのことを思っていた。つまり俺の初恋の人だ。


 その後中学に上がって、光子の恋愛脳が覚醒して以降、瞳ちゃんへの好きの気持ちは冷め。というよりかは、光子に冷めさせられたと言っていいだろう。瞳ちゃんは俺の人生の中で唯一恋愛対象として好きだった人物なのだ。


 初恋の人に俺の今の生活を暴露されるのは正直言って嫌だ。というか絶対嫌だ。だって……、童貞に恋愛相談マスターにポエミストって


 俺はこの秘密を絶対に守り通さねばならん!


「恋次君は昔と全然変わらないね」


「そ、それはあれだよね? 昔の少年の清い心を持ったまま、っていうお褒めの言葉だよね!?」

「昔と変わらず目つき悪いって事かな?」


 俺ってそういう風に見られてたのぉ! アニメに出てくるクールなキャラがカッコいいって思って毎日眉間にシワ寄せて生活してたんだった……、黒歴史だぁ!


「マジかよ。俺ってそんなに目つき悪いかな?」


「ふふ、冗談」


 歩きながら瞳ちゃんと目が合わさる。綺麗な夕日をバックに映る瞳ちゃんはもう一流モデルそのものだ。


 や、やばい。可愛い、可愛すぎる。


 俺は恥ずかしくなってたまらず目を逸らした。


「恋次君達はどのくらい沖縄にいるの? 随分大きい家だったけど」


「ああ、俺の父さんが貸し別荘の1ヶ月招待券を貰ってさ。仕事で行けない両親の代わりに高校の友達連れて来たんだよ」


「じゃあ1ヶ月もいるんだ! 来てよかった……」


 きてよかった?


「それより瞳ちゃんのご両親は? 久しぶりに挨拶しに行きたいな!」


「パパとママは本島で暮らしてるからこの島にはいないのよ」


「そっかー、残念だなー。じゃあ瞳ちゃんはこの島に何しに来たの?」


「私は、その、あれ、あのー、海を見にきたの! この島の浜辺からみる夕日がとても綺麗って有名だから……」


 確かに夕日は綺麗だ。でも……、もう日沈んじゃうよー!?


「じゃあ急いで浜辺に行こ! もうすぐ日が沈んじゃう!」


 瞳ちゃんの手を引っ張って、少し先に見える海を目指した。


「えっ! うん」


 後ろをソッとみると瞳ちゃんの顔が夕日で桜色に染まっているように見えた。


 うはっ! 今俺あの瞳ちゃんと手握ってる。ありがとう神様。ありがとう父さん!


 走る2人の秒針は見事に一致し、歩幅、呼吸が同時進行している気分だ。


「はぁ、はぁ、はぁ。間に合わなかった……。ごめん瞳ちゃん! 俺が時間とらせたばっかりに瞳ちゃんの目的果たせなくて!」


 俺は全力で謝罪した。1時間フェリーに揺られ本島から夕日を見に来た瞳ちゃんは俺のせいで、夕日を見る事ができなかったのだから、謝るのは当然のことわりだ。


「はぁ、はぁ、だ、大丈夫だよ。いつでも見れるし」


「で、でも……」


「じゃあ1つ私の言うこと聞いてくれない?」


 瞳ちゃんは息を切らせながらもハキハキと喋っている。


「うん。もちろんだ!」


「私を恋次君達が住んでる貸し別荘にしばらくの間、泊めさせてくれないからしら」


「うん。もちろんだ!」


 って、え? ええええええええええ!?

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