第16話 新たなる出会い!?

 あの夜のことを思い出すと今でも恥ずかしさでこの世から消えてしまいたい。恋愛もろくにした事がない童貞の俺が、彼氏持ちのリア充にあんなポエムみたいな事を。それに……、俺の言葉を聞いた後の光子の反応。あれは汚い汚物を見る目だった。


 あぁー、神様、一昨日の夜にタイムスリップさせてくださぁい!


「おっはよーうお兄ちゃん! まだ体調悪いの?」


「ああ、体調というか、俺の心の中のキザな隊長が悪いというか」


 俺は疲労と寝不足のせいか、沖縄3日目にして体調を崩してしまった。これが実は恥ずかしさで眠れなかった事は秘密事項である。


「宇都宮殿、お薬でございましゅる」


「あ、ありがとう五十嵐」


 こいつ毎日語尾変わってんな。


「ところで宇都宮殿、そ、その、今日妾は中城城跡をま、学君と見に行くのじゃが、1人で大丈夫かの?」


 顔を赤らめ恥ずかしそうに五十嵐は言う。


 は!? こ、こいつらいつの間にそこまで進展させてやがったんだ。まずいぞこれは……。学の奴は『友達になりたかっただけ』って言ってたけど、遊びに出かけるに連れ仲が深まりゴールイン! なんて事も……。


「あ、あははは。ソウナノカー、実は俺も中城城跡を見学したいと思ってたんだー。オレもツレテッテクレヨー」


 お前らを2人きりにして良い感じになってもらっては困る。ここは肉を切らせて骨を断つ。俺の体を犠牲にしてでも阻止せねば!


「お兄ちゃんは寝てなきゃダメ! ちゃんと休まないと治んないぞっ!」


「い、いやでも恋歌、俺……」


「お兄ちゃんが元気になってくれないと……、私も元気でないな……」


 恋歌は口元を右手で隠しながら、恥ずかしそうに言った。


「恋歌……、わかったよ。ごめん」


 そうだよな。恋歌はここに来てる6人の中じゃ一番年下で気も使うよな……。


「じゃあ恋歌今日は俺と……」


「光子さーん! 今のどうですか!? 結構良い感じに演技出来てませんでした?」


「まぁまぁよ恋歌ちゃん。今日は私が恋歌ちゃんをハリウッド女優に育て上げてあげるわ!」


「お願いしまーす!」


 ……、俺あいつら嫌い。


「じゃあ恋ちゃん、私と国光先輩と恋歌ちゃん、今日はショッピングしに行くから安静にしとくんだよ!」


 え、て事は今日は俺1人?


「待ってくれぇー、俺も連れてって」


「師匠! しっかり治してまた色々と教えてねー」


 国光先輩……、ふっふっふ。奴らめ、まんまと俺の罠にハマりおって。体調なんて全然崩してマシェーン。誰が嬉しくてこんな暑苦しい中、外に出るって言うんだ。せっかくの豪邸、家に居るのが一番快適だろ。


 そう、これは俺が1人になるための作戦。体調を崩したふりしてこの豪邸に1人、スローライフを実現させるための。


 ああ、うるさい奴らが消えて俺の平穏な1日は確約された。こんなに嬉しい事はない。


「忘れ物忘れ物! あれ? お兄ちゃん?」


「ゲホっ! ゴホっ! おぉ、忘れ物か……? 今度は忘れるなよ……」


「うん! お兄ちゃんも安静にしとくんだよー!」


 はぁービックリしたぁ! 危ない危ない、一応もう少しだけソファで横になっておくか。


 俺はベッドに横になると睡魔に襲われ、気づかないうちにそのまま眠りこけてしまった。


「……、ねぇ、恋次君は好きな人……いる?」


「いねぇよ。ま、将来俺が好きになる女は世界で一番モテる奴だろうな」


「そっか……」


 んあ? あぁ、夢か。


 俺は同じ夢を何度か見たことがある。黒いオカッパの女の子が俺に好きな子がいるか聞いてくる夢を。どんな夢だって話だ。


 てか今何時だ?


 顔を両手の手のひらで何度か擦り、寝ぼけた頭で時計を見る。


「15時12分……、15時!? 俺5時間も昼寝してたのか!?」


 もうそろそろあいつらも帰ってくる頃だし。あぁ、せっかく1人になる為の作戦考えたのに……。


 俺は朝から何も食べていなかったので腹が減ったと思い近くのスーパーに行った。


 近くのスーパーで徒歩30分てヤベェな田舎。


 お腹が減りすぎて胃が痛い。俺はスーパーで弁当を買って帰った。


 別荘に帰る途中、ゆるい坂道をダラダラと下っていると、反対方向から白のワンピースに、大きめの白のキャベリンを被ったシュッとした女の人が登って来た。


 その人のあまりに綺麗なワンピース姿に見とれた俺は、思わず目で追ってしまった。


 すれ違い様、白のワンピースを着た女の人と目が合った。


 美人だなぁー、そう思いながら歩いていく。


「れ、恋次君……?」


 後ろから自分の名前を呼ばれた気がして後ろを振り返る。


「やっぱり! 恋次君だぁー!! 久しぶり!」


 その女の人は俺の名前を叫びながら猛スピードで俺に抱きついていた。


 だ、誰……!?


 風で白いワンピースの女性の帽子が落ちる。


「く、黒のオカッパ……」


「うん! 昔から切ってないからね!」


 俺は黒のオカッパ頭に見覚えがある。夢の中で俺に好きな人はいるかと聞いてくるあの子だ。


「あ、あの。失礼かもしれないですけど……、どちら様ですか?」


 女の人はクスッと笑った。


「相田瞳、覚えてない?」


 相田……、あっ!


「もしかして瞳ちゃん!?」


「ふふ、久しぶり恋次君」


 彼女は相田瞳あいだひとみ。俺が8歳の頃まで近所に住んでた2個上のお姉さん。


 ツンと上向いた長いまつ毛、凛々しい茶色の瞳に綺麗な形をした鼻、顔はモデルさんみたいに小さい。まるで人形を見ている様だ。


「え、ていうかなんで瞳ちゃんが沖縄に?」


「もう! 忘れちゃったの? 私は沖縄に引っ越すから転校したのよ」


 そ、そうだったのか。


 あの時はまだ俺も小さかったし、瞳ちゃんが遠くに行くとしか聞いてなかった。


「むしろ恋次君は沖縄で何してるの?」


「え、ああ。高校の友達と妹で旅行しに」


 この時俺は、東京の空港で光子が話していた事を思い出す。『旅行先で偶然出会って仲良くなった。っていい恋愛展開になりそうじゃない?』と言う言葉を。


 こ、これって今まさにその状況なんじゃ……。


「すっごい偶然! 実は私も大学夏休みだからたまたま帰ってきてたんだよね」


「そうなの!? もし良かったら俺の泊まってる場所来てよ! 光子と妹も喜ぶと思うんだよね!」


「光子ちゃんもいるんだ……」


 瞳ちゃんは一瞬暗い顔をした気がした。


「ん? どうかした?」


「あっ! ううん、なんでもない! じゃあお邪魔しちゃおうかな」


 運命とは突如現れる物である。それが必然的な物だったのかどうかはわからないが、俺はこの夏、運命を恨むこととなる。この時の俺はそれをまだ知らない。

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