第15話 幼馴染がどこかおかしい!?
「もうダメだー。今日だけで夏休み37日分の体力使ったー」
「まさか恋次、僕が五十嵐さんに告白しようとしてる、と思っていたとはね」
「普通『僕は五十嵐さんの事が好きみたいだ』なんて聞いたら告白すると思うだろ」
「恥ずかしいから真似はしないでよ」
俺と学は二階の部屋に、女子3人は1人部屋が1階に1室と2階に2室、そして1番年上の国光先輩は3階を丸々使った、だだっ広いゲストルームで生活する事になった。
ようやく長い1日が終われる。目を閉じて思い返すと、本当に濃い内容の1日だ。俺は疲れからかスゥーっと眠りについた。
「……きてよ。起きてよ!」
んぁ? 学か? どうしたんだよ。
目をこすりながら上体を起こす。暗くて何も見えない。
「起きてよ!」
「ウワァァァァ!!」
携帯のライトを顔に当てた女の霊が、俺を見ている。
「て、なんだ光子か……」
「ちょっと、静かにしてよっ! 皆んな起きちゃうじゃん!」
なんでこいつの頭の中では皆んなは起きちゃダメなのに俺は起こして良い事になってるんだ?
驚いた拍子に大きな声を出したせいで、学が何かムニャムニャ言っている。睡眠が浅くなった証拠だ。
俺は耳を学の口元に当てて、どんな寝言を言っているのか聞き取る。
「い、いぎゃらしぃさん、もぅたべれぇないですー……」
どんな夢見てんだよ学の奴、気色悪い。
「全部食べきらないと千切りにするわよ?」
学の耳元で囁くと背筋を震わせながら学はもう一度深い眠りについた。
「で? なんで俺のこと起こしたんだ? 俺かなり疲れてるんだけど……」
「ちょっと話がしたくて」
俺はもう騙されないぞ! そんな暗い顔して、どうせくだらない事なんだろ。
俺は光子に連れられ夜のプールサイドに足だけ水に浸からせる体勢で座った。
「なんだよ話って」
俺はどうせくだらないと思っていたが、微かな望みにかけて聞いてみる。
「最近私たち話せてなかったでしょ? だから……」
おいおい、これって結構王道なラブコメの展開なんじゃ……。
「だから……、恋ちゃんに恋愛の基礎についての授業出来てなかったな、と思って!」
わがっでまじたよぉー、こいつが普通の話をしないことなんて!
ひんやりと冷たいプールの水を、足でバシャバシャとバタ足してはしゃぐ姿は子供のようだ。
「恋愛の基礎っていうのは……」
「いや、光子。今日は俺も疲れてるし、それに2人でいる所を国光先輩が見たら悲しむ。今日は寝よう」
光子は確かに恋愛脳で恋愛の知識やセンサーは人並外れている。ただ、自分の恋愛になった途端、急にそのセンサーが鈍くなるのだ。
光子が彼氏がいるのにも関わらず俺と仲良くするのも、決して悪気があるわけではない。ただ光子は、自身の恋愛を客観視する事が出来ないのである。
「そっか……、起こしてごめん。でも、相談があるの」
え? 光子が俺に相談? 初めてじゃないか?
今日はよく相談される、とは微塵も思わなかった。光子の初めての相談の内容が気になって俺の頭は今日の出来事など脳のどこか片隅に追いやられていた。
「恋ちゃんは、私がどーして恋愛、恋愛って言うようになったか覚えてる?」
ンアーッと、なんだっけなぁ。もうちょっとで思い出せそうなんだけど……。
「わ、悪りぃ、昔の事で記憶が曖昧なんだよ」
そんなに深刻な過去だったっけか? マジで思い出せん。
「良かった」
「良かった? 別に良かねぇーだろ、お前の大事な記憶の一部を忘れられたんだぞ?」
「恋ちゃんは相変わらず優しいね」
なんだ、なんなんだ。今日の光子はやっぱり、沖縄についた頃からどこかおかしい。
「な、なぁ。光子が恋愛に興味を持った理由、教えてくれないか?」
光子はニヤニヤっと笑って俺に体を近づけてくる。肌と肌が触れ合う距離にまで顔を近づけて、上目遣いを忘れずに光子は俺の目をじっと見ている。
「知りたい?」
「あ、ああ。教えてくれ……」
近い近い近い!!
俺の顔は真っ赤に染まっている。鏡など見ずともわかる。
「やっだよぉー! 忘れたなら自分で思い出しなさいっ!」
急にあっけらかんとした態度で振舞う光子。
「じゃあ相談も嘘なのか? ただ俺をからかう為についた」
「うん! そうだよ!」
俺はチラッと光子の手元を見る。光子は親指と中指を擦り合わせていた。
はぁー。本当、恋愛脳の奴らってすぐ相談したがる癖になかなか本題に入らないんだよな……。
「早く言えよ。なんだよ相談って」
「……」
何も言わずにただ下を向く光子。むしろそこまで言い出しにくい事ってなんだ? 俺だったら、エロ本貸して、とか一緒に女子の風呂覗きに行こうぜ! とかか?
「相談、って言うか、質問なんだけど。わ、私の友達がね? 昔から好きな人がいるのに、好きじゃない人から告白されて付き合っちゃったんだって」
この私の友達がね? ってくだりは大体、本人のエピソードだが、これ以上光子の好きな人の話を聞くのは何か辛いからあえてここは流そう。
「でね、いざ付き合ってみたら、その人の事も好きになっちゃって。でもやっぱり昔から好きな人の事もまだ好きで。どうすればいいか分からなくなっちゃったんだって」
なるほど……、つまり光子には昔から好きな人がいる。国光先輩も好き。どうしようって事か。
「でもその女の子には優柔不断で、1人を選ぶ事は難しいんだって。どうしたらいいと思う?」
なるほど、なるほど。つまり、光子には今、2人の好きな人がいると。でも1人に絞りきれないと。これ国光先輩が聞いたら超面倒臭い展開になりそう。
月の明かりは徐々に薄れて行き、サヨナラを告げるとともに太陽の光が俺達を照らす。
「いいか光子、その2人は太陽と月だ。両方同時に現れちゃ行けない存在。だから、光子がじっくり考えろ。どんだけ時間かかっても、太陽と月、どっちが好きか決めるんだ」
「へーー、そのアドバイスはないわ」
へ!? 中々いい事言ってなかった俺!?
「いやぁーキザですなぁ恋次氏は。将来は童貞ポエマーでも目指せるんじゃないんですかね?」
俺は我に帰り自分の発言を思い返して見る。
「ちょ、今の言葉忘れて! 頼むから! 恥ずか死するから! って誰だ!? 今後ろで物音が!」
後ろを振り返って見ても、静閑なリンビングルームが広がるだけ。
きっと、月夜の魔法によって気が大きくなってしまったのだろう。そんな魔法も眩しい朝日に当てられて解ける。ああ、なんて恥ずかしい事を言っていたのだろう。
今更後悔しても遅いのに……。
「まぁでもありがとう。あの時みたいにまた相談乗ってね!」
恥ずかしさで石になった俺に光子の救いの声は残念ながら届かない。
てか俺、疲れてたのにほとんど寝てねぇーー!!
こうして俺の長い長い1日は幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます