第14話 親友も恋愛教!?

「はぁー、疲れた。バーベキューの食材買ってきたぞぉ! 俺疲れて調理する気になんねぇから誰かよろしくー」


「恋ちゃんすっごく汗だくだねぇ。走って帰ってきたの?」


 袋3つに女子中学生ぶら下げながら歩いて帰ってきたんだよ。


「いやぁ、さすが沖縄だな。汗でTシャツがビチョビチョだ。俺シャワー浴びてくるわ」


 バーベキューの準備が出来るまで、今日一日の汗を流すとするか。


 別荘についている風呂場はとても高級感あふれるジャグジー付きのもの。しかも打たせ湯、サウナ機能付きだ! 今度使ってみよ。


 最高じゃねぇか。家から出たくねぇとか思ってたけど、案外コッチの方が快適だったりしてな。ありがとう父さん。


 シャワーを浴び終えて浴室から出ると、庭から肉と野菜の香ばしい匂い! そして『ジュワァァ』と食材が焼ける音だけで、ご飯3杯はお代わり出来そうな程に食欲をそそる音色。


 食事とは味だけでは無い。見た目、音、匂い、食感……、5感全てで楽しむものなのである。


「いっただっきまーす!!」


 美味しい! 塩胡椒のシンプルな味付けだけどしっかりと素材の味が生きてる! それに何より、この星空の下で食べてる、ってだけで最高級のスパイスが振られてるぜ。


 なに語ってんだ俺。


「でも本当に五十嵐さんって料理得意なんだね。包丁さばき見てすぐわかったよ」


 学、そりゃあれだ。五十嵐は歴史バカだか、剣さばきの要領で上手いだけだ。包丁使いと料理の腕は関係ない。勘違いするな。


 みんなでワイワイと過ごす初日の夜はとても楽しい時間だった。


 思い出を語ったり、これからしたい事を語ったり。こいつらとこんな楽しい思い出が作れたんなら最初から嫌がるんじゃなかったな。


 全員が食べ終わって後片付けをしている。その中に学の姿はどこにも見当たらない。


 あれ? あいつどこいったんだ?


 俺は学を探しに別荘の敷地外に出た。


 親友を、心配して......。べ、別に後片付けが面倒くさくて女子と国光先輩に押し付けた訳ではない。 


 近くの砂浜をスマホの懐中電灯機能を頼りに俺は歩いた。そして、1つの足跡が海辺の方まで続いているのを発見した。


 ま、まさか学のやつ、じ、自殺!? ひとつなぎの大秘宝、【海中の伝統】を探すため深い海に潜って行ってしまたのか!? 


「まなぶーーーーーー!」


「恋次、片付けはどうしたの?」


「......ん? ああ、あいつらに任せてきた。急にいなくなったお前が心配でさ」


 はぁーー、ビックリしたぁ! 学の幽霊出てきたと思ったわ。マナブハザード始まったかと身構えちまったぜ。


「はは、ありがとう恋次。もう戻るから先に行ってて」


 今の笑顔はいつも学が俺に見せているものとはどこか違く感じた。


「学、どんな事で悩んでるんだ?」


 学の言葉を聞き流し、疲れている様に見える学に話しかけた。優しく、なおかつ真剣な雰囲気を出しながら。それが悩みを聞き出す最低条件だ。


 俺は何回、国光先輩の悩みを聞いてきたと思ってるんだ。俺はもう、悩み相談ならマザーテレサよりも上手く出来る自信あるね!


「恋次……には流石にわかるか。なら俺の悩み聞いてくれない?」


「当たり前だ。その為に学を探しにきた」


 さぁどんな悩みだ? 新作映画が見たい、だろ? 新作映画が見たい、だよな!? 新作映画が見たい、って言え!!


「実は僕……、五十嵐さんの事が好きみたいなんだ!!」


「…………、うん。やっぱ相談乗るの話は無し。じゃあ俺片付けに戻るわ」


 みんなに片付けをやらせるのは罪と思い、片付けに逃げ......、片付けに戻ろうとした俺の体を学はガッチリと押さえ込んだ。


「何逃げようとしてるの? 手伝ってよ!」


「無理無理無理! 絶対無理! そもそもお前、恋愛に興味なかったじゃん! しかもよりにもよって……、あんな歴史バカで確立してないキャラ自分に課してる変人のどこがいいんだよ!」


「ヘクチっ!」

 

「夜風で体冷えた? 大丈夫?」


「問題ない、だだのくしゃみでおじゃる」


 なんでよりにもよって学が……。だってぇー、これで学が五十嵐とくっついたら? 光子と国光先輩、学と五十嵐、で俺余るじゃん! 本当にロリコンの扉開いちゃうよ? シスコンの壁よじ登っちゃうよ!?


 それにこれ以上周りが恋愛脳になったら困る。もう教祖じゃないの俺だけになっちまう。


 学には悪いがお前の恋は何としてでも止めなければいけん。親友として……、ごめん本当は俺の寂しさと尊厳の為に!


「で、五十嵐のどこに惚れたんだ? 俺が全部否定してやるから言ってみろ」


「最低だな」


「早く言え」


「わかったよ。まずはやっぱり可愛いところでしょ」


「うん。確かに可愛い。スタイル良いし、おっぱい大きいし」


「それに知的さが滲み出てて、なんかセクシーに雰囲気あるじゃん」


「うん。知的のイメージをぶち壊す不思議ちゃん通り超して目障りちゃんなキャラしてるよね」


「しかも優しいし」


「うん。力加減すら分からないメスゴリラだけどね」


「しかも、僕と映画の趣味が合うんだ」


「……」


 そこかぁー!! あん時! そう思えば学と五十嵐、仲良く映画の話してたもんな。俺の距離置こう作戦無視してまで。


 だがこれはまずい。今のではっきりとした。学は本気だ……。


「な、なぁおい。さすがにまだ沖縄に来て初日だぜ? もうちょっと雰囲気作ってからの方がいいんじゃ……」


 絶対にこの沖縄で『2組のカップルと兄妹』って組み合わせにはしたくない。なんか変な方向に走っちゃいそうだし。とにかくここは学に我慢させよう。


「な! 沖縄であと1ヶ月以上共同生活するんだし、断られたらどーすんだよ。俺らをバカンス気分から地獄めぐりの気分にさせる気か? だからとりあえず今は様子みようぜ!」


 よし! ここまで言えば学も大胆な行動には出れまい。


 断られる事をやんわりと匂わせつつ、断られたら俺たちのムードを壊すと言う罪悪感を植え付けるダブルパンチ! 


 我ながら恐ろしい程の話術だ。


「でも。僕の心は五十嵐さんに僕本心を伝えたがってる。胸が苦しくなるんだ。恋次には感謝してる。沖縄に連れて来てくれて。断られたっていい、僕は男になるよ」


 ポゲェャャャーーーーー!! ちょ、ちょっと待て! いつから学は恋愛教に入信してたんだ? 『心が伝えたがってる』って、お前つい先日まで『僕には親友の恋次がいればいいよ』とか言ってたじゃねぇーかぁ。


「あら、宇都宮殿に弁楽殿。片付けをサボって2人で談笑とは、いいご身分であるのぉ」


 イーガラーシさーん! なんでこう言う時に出て来んのぉ? そこは空気読んで友情取らせる展開だろぉ!?


「あ、あの五十嵐さん! 僕は五十嵐さんに伝えたい事があって、そ、その、あの、その……僕と!」


 終わった、成功しても失敗しても俺の沖縄生活は終わった。ウワァーン、もう1人で帰るー!


「僕と友達になってください!」


 へ!? 今、なんて? と、友達……?


 ビシッと腰を90度に折り前げ右手を耳の横に真っ直ぐ平行に立てている。はたから見れば告白している様にしか見えない姿だ。


「キュ、急に何を!? と、とととと、友達とな? ももももちろんじゃです! よよよろしく願いします!」


「こ、こちらこそよろしく……」


 2人は硬い握手を交わした。


 ねぇ、こいつらマジなんなの。たかが友達申請ですよ? なんでそんな緊張した雰囲気醸し出せるの? 今の時代ボタン1つ、ポチってするだけで友達になれる時代だよ? クソクソクソォ!! 


 お・れ・はぁーー、もう絶対にー、誰の相談にも乗らねぇーーーーーー!


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