第13話 俺はシスコンなんかじゃない!?

 ジメジメした暑さのなか吹かれる夜風は気持ちいい。妹と2人、俺は近くのスーパーに携帯のナビを使って向かっている。


「お兄ちゃんさ、彼女作んないの?」


 ゲホゲホっ!! こ、こいつ急に何言ってんだ。まさか光子の魔の手がここまで妹に浸透していようとは。


「作んないよ。お前の前でだらしないお兄ちゃんでいる訳にはいかないからな」


「ふふ、何それ」


 こんな話を出来る兄妹がこの国に何組いるだろうか。もし【兄妹仲良し選手権】なるものがあるのならば、全国大会出場は間違いないな。


 待てよ、中にはチューしちゃう兄妹とかもいるのか? それはさすがに……。


「何考えてるのお兄ちゃん」


「えっ、あっ! すまんすまん、こっちの話だ」


「こっちってどっちよ」


 のどかだ。ふと空を見上げると都会では絶対に見れない満点の星空が広がっている。天然のプラネタリウム、いや、それ以上だ。


 人口は天然には勝てない、ってことだな。


「おい恋歌、上見てみろ」


 恋歌は上を見上げると数秒間の間、無言になった。そして声高らかに、


「すっごーい! お兄ちゃんあの星何? あれが夏の大三角形?」


 満面の笑みで星空を見上げる妹を見て俺は連れて来て良かったと心から思っている。


 おっと危ない危ない。実の妹に惚れる所だった。こいつの可愛さはオリンピック級だな。


「ねぇねぇお兄ちゃん、あれ見て!」


 ブホっ!! お、お前一体なんてものに興味を示しているんだ!?


 恋歌はフルヌードの大事な部分だけを三味線で隠した顔ハメパネルを指差した。


「やっぱり男の子は大きい方がいいんだ……」


 自分のスカスカのTシャツを見て恋歌は落ち込んだ様子だ。


 た、確かに男は大きい方がす、好きだけど? この世は広いって言うし!?


「心配するな恋歌。お前のまな板でも需要と供給が成り立つ世界だ!」


 俺は恋歌の方に手を乗せて励ました。おそらく母を見る限り、恋歌の胸は……、


 なんだか段々可哀想に思えてきた。


「なーに言ってんだかお兄ちゃんは。なんかキモい」


 ああ! 実の兄貴にキモいだなんて……、でも大丈夫、何度も言うがこの世は広い。それも需要あるぜ!


 俺は心の中でそんな事を思い、キメ顔を決めながら親指を立てた。


「あ! スーパー見えた! お兄ちゃんどっちが先に着くか競争しよ! 負けた方は帰りの荷物持ちね!?」


 スーパーまでの距離は約150メートル。ふ、ここは兄貴の偉大さを教えてやろう……、ってそのセリフ言いながらスタートダッシュしてんじゃねぇ!! ボルトもびっくりな大フライングかましやがって!


「ふっふっふ、恋歌の勝ちー! イェーイ! おにーちゃん荷物持ち決定!」


 こ、こいつ将来ろくな女にならんぞ。でもそんな所も愛おしい。


 と、冗談はこの辺にしておかなきゃ本当に俺がロリコン、シスコンの変態野郎だと思われてしまう。


「で、バーベキューって具体的に何を買えばいいんだ?」


「うーんと、恋歌的には。チョコでしょ、いちご、プリン、チーズケーキ、シュークリーム」


 ……、とりあえず電話して聞こ。


 牛肉、ソーセージ、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、パプリカ、アスパラ、しいたけ……。あ、それと飲み物も、っと。


「おーい、妹よ。デザートはバーベキューに必要無いぞー。カゴから出しなさーい」


「えー、ケチ。じゃあこれだけ!」


 妹は俺の持っている買い物カゴに6本入りファミリーパックのスティック棒アイスを入れた。


 ま、夏だしこれくらいがちょうど良いよな。


 会計を済ませて別荘に帰る。行きは上り坂が続いて大変だったけど、帰りは下り坂だから幾分か楽だな。


 ただ、この蒸し暑い夏夜のなか、レジ袋3つ持って歩くのは流石にしんどい。


「おにーちゃん辛そーだね? 恋歌が手伝ってあげようか?」


「ああ、頼む。軽い野菜の袋でいいから持ってくれ」


「んー、じゃあ、『俺が大好きな恋歌ちゃん。荷物持つの手伝って』って言ったらいいよ! ふっふっふ、恥ずかしくて言えまい」


「俺が大好きな恋歌ちゃん。荷物持つの手伝って」


 俺は一瞬の間も与えず答えた。


 恋歌は俺にこんな事を言わせて何がしたいんだ?


「ムゥゥッハァ、ハァ、ハァ……」


 言わせた本人が恥ずかしさで悶えてたら世話ねぇな。


「んーお返しだぁー! お兄ちゃん大好き!」


 そう言って恋歌は俺に抱きついてきた。


「ちょ、おま、バカ! 離れろ、暑いだろ! てか袋1つ持てよ!」


「嫌ですー、離れませーん。袋も持ちませーん」


 可愛い妹に抱きつかれながら俺は思う。こいつ本当にねぇな……、と。

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