第12話 旅行先は浮かれちゃう!?

 沖縄についた俺たちはスーツケースを受け取り空港を出た。


 照りつける太陽、眩しく光る波際。ああ、都会の喧騒から逃れ俺たちの門出を祝うかのように青い空が俺たちを出迎えてくれる……。


 なんて都合の良い事は起きず、曇り空、ジメジメと暑く、空港の周りはなんら都会と変わりはしない。


「いやぁーやっとついたねー!! スミレっちは飛行機の中で何してた?」


「妾はずっと、綺麗な地上を眺めておったぞ」


 確かにお前は地上を眺めてたよ。自分の足が写り込む床をな。


「曇りかー。どうせなら初日は晴れが良かったな」


 学はそう言いながら空港の前でしぼんだ浮き輪に空気を入れようとしている。


「ちょっ! 学? やめてそういうの? 恥ずかしいから! 周りの視線が紫外線より痛いから!!」


「師匠! 初日はどんな恋愛展開に持って行くんだい?」


「初日は宿泊先に行くだけですから。そんなキラキラした目で俺を見ないでください」


 こいつらまさかこのペースで来るのか? おそるべし天然集団。


 皆、ご機嫌気分で浮かれているのだろう。まぁ初日だし許してやるか。ただそうなると怖いのは光子だ。もしかしたら今日は寝るまで恋愛話をするんではなかろうか。 


 俺はチラッと光子に目をやる。


「……、何見てんのよ? 早く宿泊先に行こ。暑くて敵わない。日焼け止めも塗ってないし」


 あれ? 以外にも普通。てっきり光子はもっとこう『遠い場所に来ていきなりナンパ。そこから始まる少しヤンチャな子との遠距離恋愛』とか言い出すかと思ったけど。


 自分での不思議だったが、何処か光子らしくない姿に俺は少し残念に思った。


 宿泊先までは空港から電車とバス、フェリーに乗って大体3時間かかる孤島にある。自然に囲まれ、浜辺のすぐ側で家からの眺めは絶景だそうだ。


 その道中、俺はいつもらしさが全く無い光子を気にかけて誰も見ていない所を見計らって理由を聞く。


「おい光子、なんかあったのか? お前らしくないぞ?」


「……気づいた?」


 虚ろな目で俺を上目遣いで見て来る光子。


 くそ! 不意を突かれた。めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか。


「そ、そりゃあ幼馴染なんだから気づくさ。何があったんだ?」


 いつもの変人ぶりを見てたら誰でも気づくぞ。


「実は私……、『沖縄に来て少し元気ないね大丈夫?』みたいな展開を望んでるの!」


 ……。やはり俺は間違っていた。こいつに気を使うなんてのは、元日に大掃除する様なもんだ。


「ふざけんな。心配すんだろ! いつも通りに戻せ!」


「心配するんだ……、じゃあ作戦成功かな?」


 小声でボソッと話す光子。


「え? なんて言った? フェリーの波の音でよく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」


「……、フェリーが転覆して無人島に流れつくって、なんか恋愛起きそうじゃない?」


「はいはい」


 いつもの光子に戻ったみたいで俺は少しホッとした。ただ光子は少し顔が赤い。船酔いでもしたのかな?


 酔い止めを光子に渡すとなぜか脳天にチョップを叩き込まれた。


 そうこうしている内に、貸別荘についた。


 外壁は白く清潔感があり中は木目調のアンティークで統一して穏やかさを演出している。


「すっげぇー。超広いな! 100人呼んでも余裕でパーティー出来るぞ!」


「恋次! 二階にもトイレついてるよ!」


「師匠、プールも付いてる! これは恋愛の発展に持ってこいなんじゃ!?」


 俺達はこれから1ヶ月間住むことになる豪邸に浮かれている。


「本当男ってバカよねぇー。たかが大きい家に興奮しちゃ……、なにこの大画面のテレビ!! 超いい雰囲気出るじゃん!」


「光子さんも絶好調ですね」


「妾が料理作りたいでおじゃる」


「……おじゃる?」


 女子達も満更でもない様子だ。


 別荘の探索も一通り終わり、全員が大きなリビングルームに集まる。


 大画面の液晶テレビの前にはコの字型6人掛けソファーが置いてある。天井は吹き抜けでとても高く、オシャレなプチシャンデリアの照明がやんわりとリビングを照らしている。


「よし! ひと段落ついた所で、ご飯にしよう」


「「「「「「「賛成」」」」」」」


 ここから一番近くにあるスーパーは徒歩30分程度。1人で買い出しに行くのは可哀想だし2人、ジャンケンで決めよう。


「「「「「「「じゃん・けん・ポン」」」」」」


 俺と恋歌……。なんか沖縄に来ていつもと変わらない買い出しって味気ないな。


「今日は妾が料理を皆に振る舞いたい。食したい物を伝えてくれ」


 五十嵐って料理出来んのか? あんまりイメージ無いけど。


 料理を作りたい五十嵐には悪いが、男達の意見はまとまっていた。


「せっかくバーベキューコンロもあるんだしさ。都会じゃ見れない綺麗な夜空を眺めながら外でバーベキューでもしようよ」


「わ、妾の手料理……」


 五十嵐はとても悲しそうにしていたが、光子と学が必死に慰めていた。


「じゃあ適当に材料買ってくるぞ」


「頼んだ恋次と恋歌ちゃん。レシート忘れんなよ」


 今回の沖縄での出費は全て割り勘だ。レシートを忘れたら全て自腹になる。忘れない様にと、妹にも何度か伝えた。

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