第11話 次期生徒会長の意外な一面を見ちゃう!?

 平穏な夏休みを、とは言ったが正直言うと、俺は少しばかり期待感を覚える。高校の友達だけで1ヶ月も旅行なんて、興奮しない奴はガンジーくらいじゃなかろうか。


 空港に着くと観光客と帰国者で行き交い外国人の姿もチラホラ見受ける。ラフな格好にサンダル、麦わら帽子。南の島帰りだろうか? 焼けた肌がダンディーだ。


 楽しそうに帰って来る帰国者を見ると、自然とテンションも上がって来るってもんだ。俺らが行くのは外国じゃないけど。そんな事は関係ない。


「やっばいお兄ちゃん! パスポート忘れた!」


「ははは、大丈夫だ妹よ。沖縄に行くのにパスポートは必要ない!」


 俺はドヤ顔で妹にカッコつける。


 中学生の恋歌は知らなくても無理はない。俺も小さい頃は飛行機に乗るには必ずパスポートが必要だと思い込んでいたものだ。


「ねぇ、皆んなの座席番号何番?」


 全員飛行機に乗る前から上機嫌だ。誘ってよかったのかもな。


 さすがに全員が横並びに飛行機の座席を取る事は出来ず各々、


 俺、43C


 光子、43D


 学、51A


 五十嵐、39B


 国光先輩、39A


 恋歌、52B


 と言う具合に振り分けられた。


 光子と隣か。やはり神様は俺を恋愛教に入信させようと企てている様だな。だがそうはいかん! 俺には必殺、【寝たふり】がある。これには流石の光子も対抗できまい。


 後ろから不気味な視線を感じる。


「さすがは僕の師匠! いとも簡単に幼馴染の隣の席を引き当てるなんて!」


 少し涙目の国光先輩は俺のチケットを凝視している。


「あ、あのぉー、席変わりましょうか?」


「い、いいのかい!? せっかくのラブコメ展開を放棄しちゃって!?」


「ははは、そもそも僕も光子も、そんな展開は望んでないですよ。彼氏の国光先輩が隣に座ってあげてください」


 よっしゃー! 寝たふりしないでこれで大好きな映画が観れる!


 こうして俺は国光先輩と入れ替わる形で39Aの座席、五十嵐の隣へ座る事となった。五十嵐も黙っていれば俺のモロタイプだし良しとしよう。


 飛行機の離陸時、ものすごい重力が掛かり、内臓が背中に押し寄せられる感じがする。


 す、すげぇ。ジェットコースターなんかよりもずっと強い圧だ。


 飛行機に乗るのが初めてだった俺には新鮮な感覚だ。すると俺の手に何やら柔らかい感触が触れる。


 手元を見ると隣の五十嵐が下を向きながら俺の手を握っている。


「五十嵐もしかして飛行機苦手なのか?」


「う、うるさい! 少し黙って手を握らせてくれ」


 いつもの五十嵐の口調では無く女の子らしい声を出しす五十嵐に俺は不覚にも可愛い、と思ってしまった。


 離陸後、安定感を出す飛行機は小刻みに振動を起こしながらも、順調に進んでいる。


「こ、こんなに揺れてる……。つ、墜落する! 機長に伝えなければ!」


 五十嵐はそんな事を呟きながら咄嗟に立ち上がる。


「ちょ、おい! 待てって!」


 俺は五十嵐の細い腕を掴み彼女をなだめる。


「窓側座るか? 気分も少しは良くなると思うぞ」


 小さく頷き俺と五十嵐は席を交換した。


 あれ、五十嵐の場合酔ってる訳じゃないから窓際に座っても意味ないのか?


「あ、あぁぁー! こんなに高く!」


 やっぱり……。はぁ、


 俺はさりげなく五十嵐の手を握りる。


「これで少しは落ち着くか?」


 またもや小さくコクンと頷く五十嵐。


 こいつにこんな一面があるとはなぁ。この旅行で皆んなの色々な一面が見れるのか?


 俺は機内で映画を見ようと思っていたが五十嵐の様子を見るとそんな気が失せていた。


 初めは優しく握っていた手も、だんだんと力強くなってゆく。互いの手の温かさを感じながら3時間のフライトは幕を閉じた。


 痛い痛い痛い! あいつあんな馬鹿力で握りやがって。俺の手は握力測定器じゃねぇんだぞ。


 血が止まるまで強く握られうっすら白くなっている自分の手を見て俺は少し笑った。


 帰りは絶対あいつの隣に座るのやめよう。

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