第9話 幼馴染に嘘は通用しない!?

 その日の夜、俺は学に電話をかけた。内容はもちろん放課後の出来事。


「……で、恋愛マスターになった訳?」


「そうなんだよ。俺はこれから国光先輩にどう接すればいいんだ」


「やったじゃないか。殺されるよりはマシだろ」


「いや、これからの事を考えると殺された方がマシだったのかもしれない。恋愛脳バカが俺の周りに2人も……」


 俺はこれからずっと光子には知りたくもない恋愛ノウハウを教えられ、国光先輩には知りもしない知識を教えなければならないんだ。


 考えただけでも嫌気がさす。


「ははは、楽しそうじゃないか。青春、って感じで」

 

 何が楽しそうだ。寂しがりやのウサギでも鬱陶しくて3日で死ぬぞ。


「お前他人事だと思って茶化してんだろ?」


「他人事じゃん」


 そうか、確かに他人事だ。いや、でも親友を救うのは当たり前だろ!


「なぁ頼むよー。どうにか策を打ってくれよ。どっちか1人だけでいいから対処する方法を考えてくれ」


「うーん。早い話、恋次が彼女を作ればいいんじゃないの? そうすれば『彼女との時間が大切だから』って言ってみっちゃんと国光先輩、2人同時に避けれるよ」


 そ、それだぁー! それしかない!


「ありがとう学! やはり持つべきは心の友だな」


 電話を切って俺は1人、作戦を練った。前回の光子と距離を置く作戦は内容がアバウトすぎたのだ。


 今回はもっと、骨組みをしっかり組み立てて成功させよう。


 俺は寝ず試行錯誤を続けた。


 よ、よし! この作戦なら行ける! 


 朝、いつもの様に適当な時間、には家を出ない。今日は光子と一緒に登校しなければならない。2階の俺の部屋から光子が出てくるのをまだかまだかと覗いている。


「お兄ちゃん、目にクマ作りながら双眼鏡で外見てるなんて、なんだか変態みたいだよ?」


「うるさい。お兄ちゃんは今ストーキング中なんだ、邪魔だからどっか行ってなさい」


 俺の奇行を妹が止めに来たが、妹に構っている暇はない。


 光子、早く出て来てくれ……。俺は今、お前とモーレツに話がしたいんだ!


 来た来たキタァー!! やっと出て来やがったな!


「行って来まーす!」


 俺は急いで玄関を飛び出し、光子に話かける。


「お、おはよう光子! きょ、今日もいい天気だな!」


「あ、おはよう恋ちゃん。曇り空だけどね」


「そ、そそそ、それより聞いてくれないか? お、オレ、き、昨日の夜さ、か、かの、彼女が出来たんだ!」


 もちろん嘘だ。俺は高校生活で彼女は作らないとラブコメの神様に誓っている。ただ、存在しない彼女を作り上げればいいだけの事。これなら誰とも付き合ってなくとも光子と国光先輩を騙せる! 我ながら最高の作戦だ。


 俺は童貞、恋愛マスター、嘘の彼女を持つ、トリプルフェイスの男となった。


「へぇーー」


「……? お、おい光子、もうちょっと興味持てよ」


「あ、ごめんごめん。で、架空の彼女がどうしたの?」


 あれぇー? なんでバレてるのぉー?


「か、架空って。そ、そりゃあないぜ光子。やだなぁーもう!」


「じゃあ、名前は? 年は? 髪型は? 身長は? そもそもどうやって出会ったの?」


 ちょ、ちょちょ、ちょっと待て。俺はそんな細かい設定まで作り込んでないぞ。


「あ、ああー名前はー、じんぐうさん? 年齢は確かー」


 俺は突然設定を作り上げられる程嘘が上手くなく、挙動不審な態度をとってしまった。


 トリプルフェイスの男、一瞬にして1つの顔を失う。


 も、もう無理だ。諦めよう。


「ごめんなさい! 嘘です!」


「知ってるよ」


 いつもの笑顔で光子は答える。


「なんで嘘だ、ってすぐ分かったんだよ」


「そ、それは……」


 光子はモジモジしながら、なかなか答えてくれない。次第に光子の頬はピンク色に染まって行き、耳まで真っ赤になっていた。


「どうした?」


「な、なんでもない! なんとなくすぐ嘘だって分かったの!」


 俺に彼女がいたらそんなに不自然かなぁー? 学に聞いてみよっと。


 怒っている様には見えなかったが、光子は学校に着くまで顔を伏せたまま、俺とは会話をしなかった。

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