第8話 まさか彼氏も恋愛脳!?

 最悪だ。想像しうるすべての中で最悪な展開だ。こんな王道は全く求めてないんだが……。


「教室で2人っきりで倒れこんで何をしてたのかな?」


 引きつった笑顔の国光先輩の表情はいつもの爽やかさでは無く怒りからくるドス黒いものに見えた。


 同じ笑顔でも場面によって捉え方がこんなにも違うんですね、勉強になります。


 予想だにしない国光先輩の登場と、思いの外大きかった光子の胸に少しばかり興奮して、俺の脳内は真っ白になっていた。


「あ! 国光先輩! 待たせてごめん! こいつと出会い頭にぶつかっちゃってさぁ。すぐ忘れ物見つけるから待ってて」


「お、おう……」


 はっ! よ、よくやったぞ光子! お前のその自分を客観的に見れない馬鹿さ加減が役に立つとは! 国光先輩も何もなかったんだ、って思ったに違いない!


「あった! 現代文の教科書! ごめんね待たせちゃって。行こ! じゃあね恋ちゃん!」


「ちよっと待って! 僕、恋次君と2人で少し話したいから先に行っててよ光子」


 光子は国光先輩の言う通り1人で階段を降りて行った。


 気まづい……。気まづすぎる! あんな事が起きた後に国光先輩と2人きりなんて。昨日家で話したばっかりなのに。


「恋次君、だから言ったでしょ。僕と光子は別れるべきだって」


 国光先輩の口角は上がったままだった。だが俺は国光先輩の目を見てゾッとした。


 目が全然笑ってねぇ!! むしろ正反対、今にも俺を殺しにかかって来そうな目をしてる……。


 俺はこの時、学が言っていた事を思い出していた。『国光先輩って中学の時、空手で全国大会出てるらしいね』


 あ、死んだな俺。


 サァーっと血の気が引いていく。


「あ、あのぉー、今さっきのは本当に偶然で……」


「うん、わかってるよ。昨日電話で光子とも話したんだ。光子は俺が好きだって」


 一途ですねぇー、先輩の彼女さん! リア充爆発しろとか妬んですんませんでしたぁーー!! 


「な、なら!!」


「でもね、やっぱり恋次君と光子の関係は少し気になっちゃうかな」


 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! もうラッキースケベなんて一生起こしませんから。胸大きいとか微塵も思いませんからぁ!


「だって、だってさぁ…………、あんなラッキースケベ現実であり得る!? ねぇどうやったらそんなラブコメの主人公みたいになれるの!? どうやったら美少女幼馴染ができるの!?」


「……へ!?」


 国光先輩は瞳を涙でいっぱいにしながら、俺に抱きついてそんな事を聞いてきた。


 ま、まさかこの人……、光子と同じくらい恋愛脳なのかぁーー!? 思い当たる節はいくつかある。そもそも名前に『光』の文字が入ってるだけの理由で運命を感じてる事、そしてそれを理由に光子に告白した事。


「あ、あのぉー、先輩……。ちなみに何ですけど、昨日は何で雨の中1人、歩道で立ってたんですか?」


「え? だってそしたら、知らない美人お姉さんに『大丈夫?』って声かけられて悩み相談に乗ってもらえて、恋愛に発展するかなぁー、って」


 やっぱりそうだぁーー!! この人も尋常じゃない程の恋愛脳バカだ!! だから光子と付き合えたのか!


「い、いや。現実世界じゃそんな事ありえないですって。そもそも日本人はシャイな性格なんですから知らない人に声をかけられるなんて……」


「そ、そうなの!? もしかして恋次君って恋愛マスター? これから師匠って呼んでいいかな!?」


 何でそうなるんだよ! てか恋愛マスターって、童貞だぞ俺。


「と、とにかく! 光子をあんまり待たせるのも良くないと思うので、今日はもう帰りましょ?」

「そうか! 彼女を待たすのはあんまり良くないって事だね!? ありがとう師匠。これからもご教授お願いするよ!」


 こうして、俺は童貞ながら恋愛マスターと言う正反対の異名を2つ持つダブルフェイスの男となった。


 はぁー、殺されるのかと思ったー。あと、光子が持ち帰ったの現代文の教科書、後で取り返そ。

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