第5話 彼氏は悩む!?
恋は気付いたら始まっている。そんな事を夢見れるのは中学生までである。俺は知っている、恋愛は試行錯誤と妥協の連続という事を。
雨が降りしきる中、国光先輩はチャラついたウェーブの髪を、雨水によってストレートにしながら1人歩いている。
「ど、どうしたんですか? 傘もささないで」
「ああ、恋次君。ちょっといいかな」
国光先輩はとても深刻そうな顔を浮かべ潤んだ瞳で俺を見た。
な、なんだこれ……。ただ事じゃないぞ。
俺はいくら幼馴染の彼氏だとしても、高校の先輩を雨に濡らしながら話を聞くほど野暮な男ではない。国光先輩を家に上げてシャワーを使ってもらった。
国光先輩はシャワーで歌う派らしい。ただ、陽気な歌ではなく、しっとりとしたバラードを歌っていた。選曲からして気分がブルーなのは明白だ。
でも俺はなんで国光先輩を家に呼んだんだ? 隣の光子の家に案内すればよかった。
「シャワーありがとう。濡れた体だけじゃなくて気持ちもスッキリしたよ」
それがスッキリした顔かよ。この世の終わりみたいな顔してんじゃねぇか。
「それで、なんか聞いてほしい事でもあるんすか?」
「うん、実は光子の事なんだけど……」
キタァー!! これって悩んだ末に別れますってやつだろ? 神様に『リア充爆発しろ』って毎晩願っててよかったぁー! ありがとう神様、僕はあなたに誓って、絶対に高校で彼女は作りません!
「み、光子がどうかしたんですか?」
「僕達は別れるべきなんじゃないか、って最近思うんだよ」
え、マジじゃん……。くだらない相談のパターンじゃないの!?
俺は心の中で冗談半分に『別れろ』、とか言っていたが、本当にその瞬間が訪れるとなると俺の心は複雑な気持ちになった。なぜなら俺は、光子が国光先輩の事をどれだけ好いているのかを、知っているからである。
国光先輩の発言から出来た沈黙がとても長く感じる。
雨音は雷鳴と共に激しくなり、静かなこの空間に強く響き渡っている。
「あ、あの、なんで突然別れるべき、なんて……。それにそう言うのは直接本人と話すべきなんじゃ……?」
「そうだよね。でも僕は光子が好きなんだ。だから……、まずは光子の事を僕の次に知ってる恋次君に相談しようと!」
この人いちいち光子自慢入れてくるな。
「光子の事が好きなら別れる必要なんてないじゃないですか」
「僕は好きだよ。けど光子はどうなのかなぁ。常に新しい恋愛を探してるって噂されてるし……。僕は最近思うんだ、やっぱり僕等の運命的な出会いは神様の間違えだったんじゃないかって」
今頃気付いたのかよ……。そもそも国光先輩も名前に『光』が付いてるって言うこじつけ運命信じてたんだ。
だが俺は知っている。光子が国光先輩の事をどれだけ好きなのかを。毎朝家をでる3時間前に起きて30分以上風呂に使ってむくみを取る。風呂を出ると美顔器で顔をコロコロ。食べるものは毎朝決まって柑橘系の果物2個。これもむくみ取りらしい。すっぴんと何かが違うのか知らないが化粧に1時間もかける。
これは全て国光先輩のためにしている光子の朝ルーティーン。
さらに言えば光子は国光先輩の好みを常に把握して、中学の時から伸ばしていた綺麗なロングヘアーを、バッサリ切る程、光子は国光先輩を好いている。
あ、ちなみにストーカーじゃないよ? 聞いても無いのに光子が勝手に教えてきただけだから! 本当だから!!
そんな光子の気持ちを知っている俺が、国光先輩と別れた彼女を見て喜べるだろうか。答えはノーだ。
「い、いや。確かに光子はいつも恋愛シミュレーションみたいな事考えてますけど、それは彼女がいない俺の為であって……、光子が自分の恋愛を探している訳では」
「果たして本当にそうかな? 僕には光子の本当に好きな人は僕じゃない気がするんだ」
じゃあ誰だっつーの。
「いやいやいや、あいつ話す内容大体国光先輩ですから。考え直してやってくださいよ」
「恋次君は本当にそれでいいのかい?」
は? 俺は? 何言ってんだこの人。良いに決まってんだろ。幼馴染が彼氏と別れるのを止めるなんて事は当然な事だろ。
「まぁいい。話を聞いてくれてありがとう。光子と話し合ってみるよ。それと、光子は僕といる時は恋次君の話をよくするよ。恋愛下手ってね。ハハハ、じゃあまたいつか相談に乗ってよ」
また俺をバカにしやがって。一生相談なんてのってやらん。
雨は止み空に綺麗な虹がかかっている。そんな晴れた外とは別に、俺の気持ちは曇りのまま国光先輩は帰っていった。
彼氏になっても自分の事が好きかどうか心配になるもんなんだな。面倒臭。
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