第4話 俺はシスコンなのかもしれない!?

 終業のチャイムと共に部活動に所属していない生徒達は一斉に下校する。帰宅部は自宅にどれだけ早く帰れるかを突き詰める、活動が黙認されていない部活動と言っても過言ではない。(過言です)


「今日どっか寄ってく?」


「悪りぃ学。今日母さん仕事で遅くなるから夕飯俺が作んなきゃいけないんだ。ごめんな」


「そっか。妹さんもまだ中学生だっけ。恋次も色々と大変だな」


 共働きの両親の子供には良くある事だが、夕飯の準備をしなければならない時がある。別に苦とは思っていないが、俺が部活動に入れない理由でもあった。


 そうして早々に帰宅しようと教科書をバックに詰め込んでいると後ろのドアが開いた。


「帰るぞ光子」


「あー、国光先輩! 迎えに来てくれたんだぁー。ありがとぉー」


 彼は光子の彼氏、平吉国光ひらよしくにみつは、一個上の高校3年生。誰にでも当たり障りのないフランクな性格で、女子人気の高い先輩。チャラチャラとした茶髪にウェーブがかかった髪の毛はいつ見ても邪魔そうだ。


 あからさまにデレデレしやがって。俺と話すときはそんな、おっとり系女子じゃねぇだろ。


「やぁ恋次君。いつも光子がお世話になってるね。助かるよ」


 光子はお前のもんじゃねぇ。そもそもお世話もしてねぇ。彼氏なら自分でお世話しやがれその恋愛バカを。


「あはは、幼馴染なんだから当然ですよ。じゃあ僕はこれで」


 俺は逃げるようにして教室を後にした。妹のために今日はカレーを作らなければならない。決して光子がイチャついてるのを見るのが嫌とかではない。断じてない! 


 はぁ、まぁ正直なところなんか嫌なんだよな。ずっと一緒にいた幼馴染の光子が彼氏と楽しそうにしてるのは。兄妹見たいな親近感が湧いちゃって。


 そもそも光子と国光先輩が付き合った理由は両方名前に『光』の文字が入っていて運命を感じたからって、あいつらの運命どんだけ割安なんだよ。運命道端に転がりすぎだろ。運命のバーゲセール常時行われてんじゃねぇか。


 いつもは光子と帰りにスーパーに寄って夕飯の買い出しをするのだが今日の俺は1人。何をどのくらい買えば良いのか、いまいち分からない。


 まぁ今夜はカレーだし、ジャガイモと人参、玉ねぎ、豚肉があれば大丈夫だろ。光子がいれば分量とか教えてくれんだけどなぁ。


「お兄ちゃんおっかえりー!! ありゃ? 今日は光子さんいないの?」


「ただいま。別にいつも光子が料理してくれるわけじゃねぇぞ」


 俺の妹、宇都宮恋歌うつのみやれんかは自慢ではないが美少女だ。中学に上がったばかりだが、さぞ人気があるに違いない。


 そして妹は光子とも仲がいい。小さい頃から俺の家に遊びに来ていた光子は、恋歌にとって姉の様な存在なのかもしれない。


「そっかぁー、残念。光子さんに恋愛相談したかったのにぃー」


 なーーーー!! こ、こいつ今なんて言った? み、光子に恋愛相談!? これは兄として絶対に止めるべきだ。


「れ、恋歌……、そ、それだけは辞めておけ。お、お兄ちゃんが聞いてやるから、な?」


 全身から嫌な汗が吹き出る。


 俺の大事な妹を、光子の様な恋愛バカに退化させてはいけないと、『妹の恋愛相談を聞く兄』と言う気持ち悪い絵面になったとしても、妹が光子に洗脳されるのだけは阻止しようと強く思った。


「ええー、光子さんがいい。前に光子さんに相談したら超いいアドバイスくれて上手く言ったのにぃー」


 もう洗脳済みだったぁーー!! てかちょっと待て、前に相談して上手く行った、って事は、恋歌には彼氏がいるのかぁ!? そ、そんな、妹はまだ中学1年生……、いつから不純異性交遊なんてする不良になってしまったんだ!?(普通です)


「まぁ今日はいいや。それよりお兄ちゃん、お腹すいた!」


「ごめん、俺は最新情報が多すぎてお腹いっぱいだから今日は自分で作ってくれ……」


 俺は部屋に戻ると枕に顔を押し付けながら『リア充爆ぜろ』と叫び続けた。

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