『オン・ザ・ロード』ジャック・ケルアック


『路上』というタイトルが有名ですが、私が読んだ訳本では『オン・ザ・ロード』だったのでこちらに統一します。ジャック・ケルアックはビート・ジェネレーションを代表する、いやそもそもビートジェネレーションという言葉を生んだ作家で、最終的にはその放埒さについて行けなくなった作家でもあります。

 生きてさえいればボブ・ディランのかわりにノーベル賞を受賞していたはずの作家でもあります。まあディランの受賞は受賞で価値ある物ですが。


 それとこの本は一つ問題があります。イイところはスゴク良くて、ダメな所はこの上も無くダメというのがそれです。『オン・ザ・ロード』は五つの旅にそれぞれ章を当て上がって構成されているのですが、なによりディーンというこの作品の魂と呼べる男が同行しない一番目の旅があんまり面白くない。ビートジェネレーションのイカした旅物語として読むとがっかりすること請け合いです。

 反対にディーンと一緒に旅する二番目と三番目の旅は文句なしにイイねって押しそうなくらいイイ話です。四番目のメキシコへの旅になると別れがちらつきはじめ、最後の旅は寂寥感しか無いという所も俺はイイなって思うのですが、そこは判断の別れるところかも知れません。


 またこの『オン・ザ・ロード』は登場人物にそれぞれ実在のモデルがいて、しかもスクロール版では本名がそのまま載っているというファンにはたまらない物語となっています。「吠える」のギンズバーグや「裸のランチ」のウイリアム・バロウズなども登場しているので彼らの作品を読んでみるのも面白いかも知れません。



 補遺:ビートジェネレーションと文学、あとノーベル賞


 ビート・ジェネレーションあるいはビートニクといった言葉を聞いたことはありませんか?(ビートニクは元々は蔑称。ビート・ジェネレーションと当時アメリカに衝撃を与えたソ連の人工衛星スプートニクを混ぜ合わせた造語。今この言葉の扱いはどうなのかな……?)

 このビートは音楽用語のビートではなく、打ちのめされたとか、疲れ切ったという意味のbeatからとられたもので、つかれきった世代という程度の意味です。ヒッピー運動の礎になった作品が多く、文学が世界を動かせた最後のそして最新の時代と呼べるかも知れません。本来ならばノーベル賞を早期に受賞してしかるべき文芸運動なのですが、最終的に代表者として2016年にボブ・ディランが受賞するまで、長い紆余曲折を経ることとなります。

ちなみにほぼ同年代の公民権運動ではトニ・モリソンが1993年ノーベル賞を受賞してます。(これも遅いと言えば遅い)

 それには多くの理由があると思いますが、その運動があまりに反社会的(幻覚剤LSDなどを使用して社会からの完全な落伍を訴えた)だったこと。違法薬物など脱法行為が大量に行われたこと。公民権運動と内容が一部被ってしまった。そして、運動の主戦場が西側の超大国アメリカだったと言うこと、があると考えます。

 まあ、言ってしまえばひとときの熱狂のような物でまともな運動とは見られていなかった、あるいは公民権運動のおまけとしか見られてなかったのと考えられます。しかし現代のLGBT運動や環境保護運動などの基礎はこの世代に求められるのも事実であり、そういった面でヒッピーカルチャーの(公民権運動とは異なる)独自性が改めて見直される時が近づいているのかも知れません。

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