第35話 秘密の地下工場と巨大な僕ら
僕らの乗った車は薄暗い地下道を進み、僅か一分足らずで奥の扉にたどり着いた。
「このドアの向こうに制御フロアがある。その向こうにあるのが『工房』だ」
五瀬さんは立ち止まってそう告げると、金属製の扉を開けて僕らを中へと招き入れた。
「うわ、すげえや」
扉の向こうで僕らを待っていたのは、複数のモニターと無数のタッチパネルが隙間なく並んだメカニカルな眺めだった。
「ここはただの制御ルームだよ。『工房』を見たらもっと驚くはずさ」
五瀬さんがそう言ってタッチパネルの一つに触れると、正面の壁が動いて大きなガラス窓が現れた。ガラス窓の向こうに現れた光景は、僕らの想像をはるかに超えるものだった。
「こんなスペースが敷地の地下にあったなんて……」
バギーから降りた杏沙が思わずため息をつき、僕も無言で頷いた。ちょっとしたトレーニングルームほどの広さの空間を様々な形の作業ロボットが埋め尽くしていたのだった。
「この地下空間は元々、貯水槽だったんだ。この土地を買った時に蓋をして、工房に改造したってわけさ」
「そうか、それで妙に天井が高いんですね」
ガラス窓の向こうで忙しそうに立ち働くロボットたちを見ながら、僕は唸った。
「さあ、それじゃ約束通り君たちの『完成予想図』を見せてあげよう」
五瀬さんはそう言うと、再びタッチパネルに触れた。するとモニターの一つに二人の人間が並んで立っている映像が映し出された。
「あっ、あれは……」
「私たちだわ」
モニター上に映し出されたアンドロイドの完成予想図は、当たり前だが僕らに瓜二つだった。とてもCGとは思えないリアルな映像に僕らはしばし、釘付けになった。
「たった今、組み立て作業に入ったばかりだけど、完成すればこの映像とほぼ同じになるはずさ。……そうだな、完成まで数日といったところかな」
本物じゃない、でもこれなら誰が見ても本物の僕らと思うはずだ……そう思いかけてふと、僕の中にある疑問が沸き上がった。
「完成したら、今のこの『ジェル』の身体はどうなるんです?」
「そのままだよ。君たちは『ジェル』のまま、自分の頭部に乗り込むんだ」
五瀬さんは驚くようなことを口にすると、CGの映像を回転させて後ろ向きにさせた。
「見てごらん。アンドロイドには、君たちが乗るための隙間をちゃんと用意してあるんだ」
五瀬さんがそう言ってパネルに触れると、映像の僕たちに驚くような変化が現れた。
僕と杏沙の後頭部が花が咲くようにぱかんと開き、空っぽの中身が丸見えになったのだ。
「これだけ隙間があれば十分だろう。少々、時間がかかるがアンドロイドの身体にいったん、なじんでしまえば『ジェル』であることを忘れて自然に動かせるようになるはずだ」
「なじむまではどうするんですか?頭の中でじっとしてるんですか?」
僕が疑問を口にすると、五瀬さんは「いい質問だね」と待っていたと言わんばかりに頷いた。
「実はこの身体には一体化していなくても動かせるよう、『ジェル』の状態でも動かせる操縦装置がついているんだ」
「操縦装置?」
「そう。これをごらん」
五瀬さんは部屋の隅に移動すると、スチールキャビネットの引き出しを開けて中から片手で持てるほどの機械を取り出した。
「君たちはこれを操縦して自分の頭部に「乗り込む」んだ」
五瀬さんがそう言って僕らの前に置いたのは、玩具のような小型ドローンだった。
「このマイクロドローンには小さな操縦席がついていて、バギーと同様『ジェル』の身体でも動かせるように作られているんだ。……もっとも、君たちが操縦席に乗るためには、今のサイズの十分の一くらいに縮まなくちゃならないけどね」
僕は目の前に置かれた小さな『乗り物』を見て、不安と興奮を同時に覚えた。
「これで空を飛んで、自分の頭の中に着陸するんですか?いくら小さいと言ったって……」
「できないと思うかい?……実は頭の中に『着陸』するにはちょっとしたコツがいるんだ」
「コツ?」
「そう、コツだ。……そうだ、実際の身体はないけど、そこの台の上で練習してみよう」
五瀬さんはそういうと、部屋の隅にある小さな丸椅子を目で示した。僕と杏沙は互いに、「なんだかおかしな雲行きになってきたぞ」という合図を目で交わしあった。
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