第34話 禁断のアンダーパス・ドライブ
「さて、食事も済んだところで君たちに見せたいものがある」
再び地下の研究室に僕らを呼びだした五瀬さんは、台車から降ろした箱を目で示しながら言った。
「見せたいものって……まさかアンドロイドじゃないでしょうね」
僕は一瞬、淡い期待を抱きつつ、箱の大きさから言って違うなと見当をつけた。
「残念ながらそいつはまだだよ。ついさっき設計図が完成したばかりだからね。君たちに見せたいのは……これさ」
五瀬さんが床に置いた箱から取りだしてみせたのは、子供が乗って遊ぶような小さなバギーだった。
「車?」
「そうだ。こいつに乗れば研究所の敷地内くらいは自由に移動できるはずだ。もちろん『ジェル』でも運転できるし、発電機を積むスペースもある」
「すごいや」
「離れの工房でこれからアンドロイドを組むんだが、君たちも一度、中を見ておいた方がいい。僕が案内するから、そいつの運転を覚えがてらついておいで」
「乗っていいんですか?」
そう言ってバギーの傍にいち早く移動したのは、杏沙だった。
「いいとも。ただし、そのままだと少々、運転しづらいかもしれないな」
五瀬さんはそう言うと、杏沙の身体をつまみあげて運転席のあたりに降ろした。
「ちょうどいい機会だから、身体の形や大きさを変化させる練習をしよう。うまくできればこの先、必ず役に立つはずだからね」
「変化の練習……ですか?」
杏沙があえぐような調子で聞いた。身体が運転席に収まり切らず、どうしてもはみ出してしまうのだ。
「そう。体内の余分な水分を空中に放出することで、体積を調節するんだ。運転席にすっぽりと収まる自分をイメージするといい」
「うーん、できるかなあ」
杏沙はそう言うと、運転席の上で身じろぎをし始めた。やがて体が少しづつ小さくなってゆき、気がつくと杏沙の身体はあつらえたようにぴたりと運転席に収まっていた。
「――さあ、真咲君もやってみるんだ」
僕は「はい」と返すと車に近づき、助手席に乗り込んだ。僕の身体は杏沙と同様にぶよんとはみ出したが、一回り小さな自分を思い浮かべると不思議なくらいすんなりと形が変わった。
「な、何とか乗れました」
「ようし、じゃあ動かしてみようか。操作は普通の車両と同じだ。キーを回してエンジンをかけ、アクセルを踏む。慣れれば簡単なはずだ」
「五瀬さん、ぼくら中学生ですよ。普通の車と同じと言われたってわかるわけないです」
僕が突っ込みを入れると、五瀬さんは「そうだった、これは失礼」と苦笑した。
「――でも、なんとなくわかるわ。まずこうでしょ」
杏沙が独り言のように言うと、エンジンが回るような音がして、車体が震えはじめた。
「すごいな、さすがは七森先生のお嬢さんだ。……それじゃあ早速、工房の方へ案内しよう。ついておいで」
五瀬さんはそう言うと研究室の奥にある扉を開けはなった。扉の向こうには薄暗い地下道が長く伸びており、はるか先に扉らしきものがぼんやりと見えた。
「行くわよ、真咲君」
「う、うん」
杏沙がアクセルを踏むと、『ジェル』専用車は五瀬さんを追って、ゆっくりと動き始めた。
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