第26話 館の主は幽霊知らず
錆びついた門をするりと抜け、僕らは雑草が伸び放題になってい敷地へと足を踏みいれた。
「なあ、僕らってだんだん、不法侵入に鈍感になってないか?」
「そうね、もうちょっとためらう気持を思いださないと、身体を手に入れた時に困るかも」
僕らはひび割れたアプロ―チの上を進み、年季の入った重厚な扉の前に立った。
「ここにいるのが五瀬さん一人だとして、どんなふうに挨拶すれば脅かさずに済むかな」
僕はずっと気になっていたことを口にした。先ほどと違って今度は気づかれなければ困るのだ。
「なんとかして合図を送るつもりだけど……五瀬さんが怖がりでない事を祈るしかないわ」
僕らは扉をくぐると、研究所の中へ入っていった。だだっ広いリビングには使いこまれた家具が並び、古い住宅の匂いがした。研究所と言うよりはお金持ちの別荘って感じだな、と僕は思った。
「随分静かだな。二階に行ってみよう」
僕は杏沙が頷くのを確かめると、リビングの真ん中で床を蹴った。真上に飛んだ僕は天井を突き抜け、書棚に囲まれた二階の部屋へと移動していた。
「この部屋は?」
僕が室内を見回していると、杏沙がすぐ隣にひょこっと姿を現した。
「……あら、普通の書斎みたいね。ふうん」
「さすがにこの部屋じゃ、研究はしないよね」
僕が言うと杏沙は「こうなると、地下かしらね」と難しい表情で言った。
僕が「しょうがない、出ようか」と言いかけた、その時だった。ふいにドアが開いて、白衣を着た人物が姿を現した。
「あっ……」
僕は人物の姿を見た瞬間、目を見開いた。四家さんの身体を通り抜けた時に見た人物と、同じ顔だったのだ。
「五瀬さん……」
僕と杏沙がすぐ傍で名前を呼んでいるにもかかわらず、五瀬さんは悠々と部屋を横切り、本棚の本を物色し始めた。
「どうやらまだ、『アップデーター』に乗っ取られてはいないみたいね」
杏沙の指摘に、僕ははっとした。五瀬さんの瞳にはいかにも技術者と言った感じの知的な光が宿っていた。
「このまま行動を共にしていれば絶対、チャンスがあるわ」
本を手にした五瀬さんが部屋から出てゆくと、僕たちは頷きあって後を追った。
五瀬さんは階段で一階に降りると、そのまま長い廊下を奥へと進んでいった。
「なんだか一休みする感じじゃなさそうだね」
「そうね。研究の途中で本を取りに来たってことだったらいいんだけど」
杏沙が希望を口にした直後、五瀬さんが足を止めて突き当りにある扉を開けた。
「……階段だわ」
「本当だ。下に向かってる。……ってことは」
「やっぱり研究室は地下にあるのね。よかった、行きましょう」
五瀬さんの足音が遠ざかるのを待って、僕と杏沙は地下へと続く階段を降り始めた。
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