第23話 盗まれた地元商店街


 『僕』と小峰先生が連れ立って向かったのは、僕の家から徒歩で十分ほどの場所にある商店街だった。


 僕と杏沙は二人と距離を置き、時々物陰に隠れながら後を追った。特に小峰先生がかけている眼鏡は、ことによると幽霊を見るための物かもしれない。油断は禁物だった。


「なあ、まだ戦う準備もできてないのに敵のことを調べても、仕方ないんじゃないか?」


 僕がやんわりたしなめると、杏沙は「それはそうだけど」と言葉を濁した。


「でも、わざわざ先生が真咲君の家まで来たってことは、私たちがこのあたりにいるって考えたってことよね?二人がどこに行くかだけでも知りたいと思わない?」


「確かに気にはなるけど、好奇心を優先させて危ない目に遭うのはごめんだぜ」


 僕が靴屋の看板の陰でぼやきかけた、その時だった。先を行く二人の脚がふいに止まり、なぜか眼鏡専門店の中に消えていった。


「なんだ?眼鏡でも買おうってのか?」


 僕が首をひねっていると、しばらくして再び二人が姿を現した。僕は店の前で周囲を見回している『僕」』を見てはっとした。出てきた『僕』が眼鏡をかけていたからだ。


「あれは……小峰先生のかけてるやつと同じだ。つまりこの眼鏡店は『アップデーター』たちに特殊な眼鏡を提供している店ってことか」


「意外と似合うわね、真咲君。……あっ、見て」


 杏沙がとぼけた感想を漏らした直後、二人はまたしても最寄りの店に姿を消した。


「今度は時計店か……」


 僕の中である疑惑が大きく膨らみつつあった。やがて二人が相次いで通りに姿を現し、僕の目は二人の手元に吸い寄せられた。二人の手に携えられていたのは、ハンディクリーナーに懐中電灯をくっつけたような機械だった。


「真咲君、あれは『幽霊』を捕獲する装置よ。幽霊を光で薄めて、機械の中に吸い込むの」


「なんだって?……じゃああの時計屋さんも『アップデーター』の拠点ってことか」


 こんな近くに二軒も敵の拠点があるなんて……まさか。


「七森、逃げよう。ひょっとするとこの商店街はもう、ほとんど敵に乗っ取られちまってるのかもしれない」


 僕が小声で言うと、杏沙は緊張した表情で頷いた。


「真咲君の言う通りだとしたら、さすがにこれ以上は危険ね。……どこか落ち着ける場所、この近くにある?」


「ここから少し先に小さな川があるけど、そこの土手で一休みするっていうのはどう?」


「いいわ。とにかく人目のない……『アップデータ―』たちから見えない場所であれば」


 僕らは頷き合うと、二人の敵に背を向けて商店街の中を引き返し始めた。日曜日ということもあって人の行き来は多かったが、幸いすれ違う歩行者に僕らの存在を感じ取れる人間はいないようだった。


「よし、外に出てしまえばまずは安心だ」


 僕が呟きかけた、その時だった。自転車屋の店先で作業をしていた男性が突然、こちらに顔を向けた。僕らがびっくりして動きを止めると、男性の表情がみるみる険しいものになっていった。


「えっ……まさか?」


 僕がそう漏らした途端、男性が店内に消えた。気のせいだろうか、そう思って再び動き出そうとした瞬間、手に小峰先生たちと同じ装置を携えた男性が姿を現した。


「まずい!やっぱりこの商店街は『アップデーター』たちに乗っ取られていたんだ!」


 そう叫んで背後を振り返ると、『僕』と小峰先生が同じ装置を手にこちらにやって来るのが見えた。

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