第14話
「旦那、また勝ちですぜ。
少しは喜んでくださいよ。
これはちゃんとした御上の御用なんですぜ
気乗りしようがしまいが、全力でお願いしますよ」
銀次郎は今日も笹次郎を供にして軍鶏鍋屋に来ていた。
しかも確かに御上の御用の一環ではあった。
今日も勝ち続けて、立会人と話す機会を設けるのだ。
だがそれがあくまで言い訳で、銀次郎に気兼ねなく「軍鶏くらべ」参加させてやろうという、柳川廉太郎と笹次郎の思いやりだというのは、銀次郎には痛いほど分かっていたが、借金返済のためにそれに乗じさせてもらっていた。
いや、博打の欲望に負けてしまっていた。
それでも、銀次郎の勝負勘は狂わなかった。
掛け率に惑わされて弱い方に賭けたりしなかった。
一度目の勝負で、柳川廉太郎に一両返して百二十四両になっていた軍資金が、百七十三両となり、二度目の勝負で二百十六両となり、三度目には二百六十両となった。
ここで直ぐに立会人が話しかけてきた。
「旦那。
もうお判りでしょうが、今日かこれで帰ってください」
「おっと待ってくれ。
帰るのはいいんだが、ちょっと聞かせて欲しんだ」
「なんです、房総の親分。
ここで親分風を吹かすのは野暮だと分かっておられるんでしょうね」
「十分わかっているさ。
ただどうしても聞かなきゃいられないことになっちまったんだ。
場合によったら、火盗と組んで大立ち回りまでしなきゃならねえ。
それくらいの大事になっちまったんだよ」
「……仕方ありませんね。
なにが聞きたいんです」
「まあ、これを見てくれ」
笹次郎はもろ肌脱いで、昨日殺されかけた時にできた大痣を見てながら話した。
「昨日旗本風の男に話を聞こうとしたら、いきなり斬りつけてきやがった。
日頃の用心のお陰で殺されずには済んだが、この通り骨が幾つか折れてやがる。
ここまでされては黙ってはおられないんだ。
相手はあんたが佐々木の殿様と呼んでいた男だ。
どこの佐々木の殿様だが教えてくれないか」
「……事情は分かりましたが、本気で聞いていなさるのかい。
相手は旗本の殿様だ。
町方の手出しできる相手ではありませんよ」
「なあに、それは大丈夫だ。
こっちにはこの殿様がついていてくださる。
今度斬りかかってきたら、武士同士の果し合いとして斬り殺してくださると、硬く約束してくださっているんだ。
なあに、あの殿様から余計な事を聞きだそうとは言わんよ。
こちらも町方の面目を立てたいだけだ。
何を聞いてもきれいさっぱり忘れるさ。
お互い守らなけらならない組織の面子があるのは分かるだろ」
「……分かった」
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