第10話

「笹次郎、少し賭けたいのだが、ここの最低料金は幾らなのだ?」


 銀次郎は五度の勝負を見て、全て予想通りに結果になったので、思い切って賭けてみることにしたのだが、如何せん手持ちの金が少なかった。

 厄介叔父で山岡家の食い扶持まで稼いでいる銀次郎では、自由にできる金など高が知れているのだ。

 だがその点笹次郎に抜かりはなかった。


「安心してください、銀次郎の旦那。

 柳川の旦那から探索費を預かっています。

 ここでの聞き込み代として、それなりの金を預かっていますから、賭け金の心配はしないで大丈夫です」


「そうか。

 だがそれでは、逆に慎重になってしまうな」


 そうは言ったものの、銀次郎には自信があった。

 軍鶏とはいえ、槍一筋の修行を重ねた銀次郎には、強弱の差は一目瞭然だった。

 いなせな漢の説明では戦績が好いはずの軍鶏の方が、ほんの少し弱い気がした。

 だが今迄の五番勝負よりも強弱の差が少ないのが気になった。

 少し離れているはずの軍鶏同士が、既に互いの強さを探っている気がした。

 そして勝率の低い方の軍鶏の方が、相手を威圧している気がした。


  立会人に指示された軍鶏の世話人が、二羽の軍鶏を向かい合わせ、互いの顔を突き合わせて興奮させる。

 世話人が頃合いに興奮した軍鶏離すと、軍鶏は足を前に出しながら互いに飛び掛かり、傷つけあう。

 ここまでは前五回の勝負と同じだったが、今回の勝負は一番長くかかった。


 銀次郎にとっても長い時間だった。

 これならば自分が命懸けの戦いをした方が楽だと一瞬考えたが、急ぎその考えを打ち払い、自分の邪心を打ち消した。

 容易く真剣勝負をする事など考えるべきではないと、厳しく自分を戒めた。


「やりましたぜ、銀次郎の旦那。

 見事に勝ってくれました。

 さすが旦那は勝負勘がありますねぇ」


 そうほめながら戻って来た笹次郎の手には、1両小判が一枚があった。

 ここの賭けは最低金額が一両からだというのが分かった。

 銀次郎は笹次郎に分からないように、安堵の息を吐いた。


「銀次郎の旦那。

 次の勝負はどうします」


 既に次の勝負に向けて、二匹の軍鶏が客たちに紹介されていた。

 今回は二羽とも初参加の若い軍鶏だった。

 戦績が全く分からないだけに、軍鶏を見分ける眼力が必要だった。

 その分「軍鶏くらべ」に慣れた玄人衆が賭けに参加しようとした。


 だが今回は銀次郎には分かり易い勝負だった。

 明らかに強弱の差があった。

 立会人の漢にもそれが分かっていたのだろう。

 最初は掛け率が同じで、参加者の組み合わせ上手くいかず、徐々に掛け率をかえていたが、幸いにも銀次郎は誰よりも早く参加を表明していたので、同率で賭けを成立させることができていた。


 

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